3−1 魔王様と知らない天井

 

>>次話

>>目次

>>前話

**********

 

 

 

ぼやけた視線が少しずつ焦点を結んでいく。

見えるのは曇り一つない真っ白い天井だけだけど。

「……この真っ白い天井は……知らない天井……だな」

かすれたような声が出る。

頭はぼんやりとしたまま。

体もずっしりと重い。

背中はベッドと張り付いてしまったかのようだ。

少しずつ身じろぎしながら、体のコントロールを取り戻していく。

腕や足が少し動かせるようになったところで、ようやく頭の方も周り出す。

「……フィルっ……フィルっっ!?」

すぐに思い出したのは一緒にキングーオークと戦っていた相方、フィルのことだった。

周りを見回してみても、小さな部屋の中には誰の姿もない。

 

ーーそんな時だった。

部屋の扉が静かに開き、一人の女性が入ってくる。

細められた目と額から生えた小さな一本ツノが特徴的。

穏やかな知的美人と言った感じの女性だが……彼女は、魔族……なのだろうか?

 

彼女はこちらに近づいてくると、僕に声をかけてくる。

「良かった……目覚められたのですね」

「貴方は……?」

「私はミルカと申します」

「僕は、鈴木、隆です……あのっ、フィルはっ……僕と一緒にいた金髪の女性っ、知りませんかっっ?」

体を起こそうとするけれど、体は言うことを聞いてくれない。

僕の胸の上に彼女の手のひらが置かれる。

「はい。存じております。フィリス様は今は外に出られておりますので、帰りましたらお呼びいたしますね……タカーシ様は3日ほど眠っておられたのです。少しずつ体をお慣らしください……今、白湯と、食べられるものをお持ちしますね」

彼女はそう言うと、部屋から出ていった。

 

部屋に戻ってきた彼女から薄いスープと白湯を受け取り少しずつ飲みこんでいく。

冷え切っていた体に熱が戻っていくのを感じる。

程よく空腹感が薄れたところで、僕は彼女に声をかける。

「あの、ミルカさん? ……ここは? 僕は、どうしてここに?」

「ここは魔王アシュリー様の避暑地、別荘でございます……キングオークにやられかけていたタカーシ様とフィリス様をアシュリー様がこちらにお連れになりました」

「そうだったの、ですね……」

「ええ。フィリス様は軽症でしたので、そのまま普通に屋敷に滞在しておられます。キングオークの一撃を受けたタカーシ様は体の各所に重症を負っていました……幸いタカーシ様の残されていたポーションがよく効いたのですが、そうでなかったら命の危機だったかもしれません」

確かにあの時【異世界ポーション水】を全部は飲み干さなかった。

あれのおかげで命が助かったって言うんなら、またまた異世界トイレ様様だな。

そんなことを考えていると、廊下から声が聞こえてくる。

『アシュリー addelj awpefoij agahwe fajwo』

『それはフィルの言う通りなのじゃ……ミルカ、今帰ったのじゃ!』

「アシュリー様たちがお戻りになったようですね……」

ミルカが部屋の扉を開けると、見慣れた金髪の美女が飛び込んでくる。

「タカーシ! 起きた、だな?」

「ええ、フィル。先ほど目が覚めました」

「良かった!」

フィルがベッドに覆いかぶさるようにぎゅっとハグしてくる。

こっちの世界ではハグは挨拶なのかもしれないけど、金髪美女に抱きしめられたらドキドキしてしまう。

めちゃくちゃ柔らかいし、なんだか甘いいい匂いもするし。

「……フィルっ……苦しい、ですよ」

「あっ、ごめんっ」

「いえ、僕もフィルに再会できたのは嬉しいですから」

パッと離れたフィルと、お互いに恥ずかしそうにしながら向かい合う。

「……うおっほん! 仲が良いのはよろしいのじゃが……フィル、先ずは我の紹介をしてはどうなのじゃ?」

そんなことをミルカの後ろから発言したのは、黒紫色のワンピースドレスに身を包む美少女だった。

見間違えるはずはない。

彼女はあの時の魔王だ……そして記憶が間違いではなければ、僕が気を失う直前にも僕たちのそばにいたはず。

「アシュリー sdfalf gawegh gnasdoifj」

フィルの国の言葉で何を言っているのかはわからないけど、頭を軽く下げているし謝っている雰囲気だろうか。

「タカーシ。彼女、魔族の王、アシュリー」

「そうじゃ。我がこの世界の魔王、アシュリーじゃ。ここは我の別荘で非公式の場じゃからな、アシュリーで良いぞ」

「ご丁寧に。僕は鈴木、隆です。タカシと呼んでください……ってあれ? アシュリー様は、日本語……でフィルと喋ってるんですか?」

「様、も別にいらんのじゃ……いや、その”日本語”というものではないぞ。我は”言語翻訳”の魔法が使えてな……諸事情でお主の言語も対応済みなのじゃよ。ちなみにミルカも同じじゃ……なので、何語で話していても言葉はお主らに通じる。言葉が通じないのはタカシとフィルになってしまうの。ちなみに我とミルカが自ずから話しているのは、魔族の言語なのじゃ」

「そうだったんですね……それでフィルがたまにフィルの国の言葉を使ってたんですね」

アシュリーだけはずっと日本語を喋ってるのに、フィルの言葉が変わるのがちょっと不思議だったのだ。

「のじゃ……タカシと色々話したいこともあるのじゃが、タカシはもう少し休んだほうがいいじゃろうな、ミルカ?」

「はい、アシュリー様。タカシ様は目覚められたばかりです、体は回復しきってはいないでしょう。お休みされたほうがいいかと思います。フィリス様は……」

「ミルカ、私、タカーシと、いる。邪魔、しない」

「わかりました。タカシ様もそれでよろしいですか?」

「はい。フィルがいてくれるなら、僕も嬉しいです」

アシュリーとミルカは、僕とフィルを部屋に残し外へと出ていったのだった。

 

 

 

>>次話

>>目次

>>前話

 

ーーNo. PD

 

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました