2−5 女騎士と森を進む

 

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絶望の森に入ってから1週間の時が過ぎた。

これまでのところ僕らの旅は順調。

戦闘しながらの絶望の森の攻略は決して早いとは言えないけれど、着実に奥へ奥へと進めてはいる。

 

異世界トイレのレベルも少しずつ上がり、今は8に上がった。

戦闘用には【異世界モップ】に《雷撃付与》のスキルをつけ、【異世界バケツヘルム】にも《属性攻撃無効》のスキルがついた。

おかげさまで、今の僕は魔法使い相手にはめっぽう強い。

例えば、今僕が向かい合っているマジックオーク。

オークの巨体と防御力はそのままに、魔法もガンガン打ち込んでくる厄介な敵……なんだけど、僕との相性は最高だ。

 

マジックオークは手を緑に光らせて、風の刃を僕に飛ばしてくる。

凄まじい速度で飛ぶ大きな円形の刃は、普通なら大げさに転げて避けるしかないだろう。

だけど……僕はマジックオークの放つ風の刃に向かってそのまま突っ込む。

緑色に光る鋭利な刃が僕の体にあたり……あっさりと消え失せる。

呆然とするように驚くマジックオークには悪いけど……

「”雷”っっ!!」

《雷撃付与》した【異世界モップ】をオークの胴体にぶち当てる。

「ぶぶぶぶぶぶもっっ!!」

マジックオークが輝く黄色い光に包まれてビリビリと震える。

巨体に似合わず素早く動いていたマジックオークだけど、その動きが止まる。

僕は動くことのできない奴の首筋に向けて【異世界モップ】を振るう。

「”魔断”っ!!」

マジックオークの首にかかった防御魔法を撃ち払う。

返す刀……じゃなくてモップ。

「”斬”!」

「ぷぎゃぁぁぁぁぁぁっっっ」

《斬撃付与》をつけたモップは抵抗を感じることもなくマジックオークの首を切り裂く。

首を半分断ち切られたマジックオークは、すぐさまボワンっと赤い煙に変わった。

 

 

 

「ふぅ……疲れたっ……」

有利な戦いとはいえ、日本ではもちろん経験することのなかった命のやり取りだ。

ほぼ100%の力で体を動かし続けるわけだから、体が疲れないわけがない。

体がずっしりと重いのを感じる。

 

そんな僕にマジックオークの死を確認したフィルが近づいてくる。

今回は一人で戦うのを試そうと、フィルには側で見ていてもらったのだ。

「マジックオーク、タカシ一人、いい……ふふっ」

「そうですね。僕の場合、普通のオークよりも楽に倒せるくらいです」

普通のオークの方が若干戦闘技術が高いので、むしろマジックオークよりも大変だったりする。

ちなみにフィルはどっちが相手でも余裕だ。

普通のオークには華麗な剣術で立ち回り、マジックオークにはそのスピードで翻弄する。

防御魔法もあるから、彼女の戦いは安心して見ていられる。

僕の《魔断ち》のアシストがないと、オークを屠るのに僕よりも時間だけはかかるけど。

「ドロップ……耳」

「そうですね。今回は耳だけですね」

フィルの指差したところに落ちていたマジックオークの耳をカバンに突っ込む。

「それじゃ、このまま先へ進みましょうか」

「うん」

僕たちはさらに前を目指した。

 

 

 

僕たちが歩いてるのは深い森の中だ。

とはいうものの、このあたりは人型のオーク達が生息している影響なのか、道は結構ひらけていたりする。

道無き道を切り開くじゃなくていいのはだいぶ楽だ。

「このまま進んで、いいんですよね?」

「ん……火山、右、見える……だから……正しい」

フィルの言う通り、右方向の木々の間には高くそびえ立つ山が見えており、相変わらずモクモクと噴煙をあげている。

「……龍の顎門。もうすぐ、ですかね?」

このまま前に進んでいくと、その火山と北の山脈が張り出して狭くなっている場所があるそうで、龍の顎門なんて物騒な名前で呼ばれているそうな。

「まだ、少し……かかる、思う。オーク、終わり……それで、オーガ、それに、リザード、マン? ……いる」

「あ、そうでしたね……」

異世界トイレの中で話し合ったことを思い出す。

龍の顎門に近づく頃にはオークの領域は終わっており、オーガやらリザードマンたちが生息しているそうなのだ。

オーガはこの大陸の人型の魔物の頂点的な存在だそうで、その強さはオークの比ではないそう。

フィルが言うには、やってやれないことはないってことだけど。

ちなみにリザードマン達は魔物ではなくて魔族。

彼らはオーガとは違って僕たち二人で相手するのは厳しいそうで、できれば戦わない方向で行きたいとのことだった。

もちろん僕には魔族に思うところは何一つないので、戦わないでいいのならばそれに越したことはない。

「……無事、龍の顎門を乗り越えられるといいんですが」

「そう、だな」

龍の顎門を超えると、絶望の森にも終わりが見えてくる。

絶望の森さえ抜けてしまえば、人と似たような生活をしてる魔族の町なんかがあると言われているそうだ。

まあその先で人族のフィルと僕がどうするかってのは、まだわからないのだけど。

……とはいえ、先はまだまだ長い。

今は僕の転移場所からも見えた超巨大木の幹の周りを迂回しているところ。

「しかし、だいぶオークの数は少なくなってきましたね」

「うん。オーク、住むところ……終わり、近い、はず」

「そうなん……?」

そうなんですか、と言おうとした僕の唇をフィルの柔らかな指先が抑える。

「しっ……」

僕に静かにするように指示したフィルは、大木から少し離れた木の木の後ろに僕を誘導する。

フィルはそのまま木の背後から前方を伺う。

「……まずい、あれ……キング、オーク……」

フィルの後ろから覗き込むと、確かに遠くにやたらとでかそうなオークの姿が見える。

この距離であのサイズに見えるってことは……体長は3メートル、いや4メートル近くあるかもしれない。

「あれが……キングオーク……フィル、か、勝てますか?」

「ジェネラル、いける……キング、だめ……」

フィルは首をふるふると振る。

「じゃあ、逃げますか……」

とフィルに提案した瞬間だった……

「……っっっ!?」

背筋にぞくりと悪寒が走った。

 

 

 

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ーーNo. PD

 

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