3−13 魔王様と魔法実習

 

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「さあ、やってみるがよいのじゃ……」

「はい……」

ドキドキしながら手のひらを前に向ける。

僕の目の前にいるのはゴブリン。

特にこのゴブリンに恨みがあるわけではないけれど、僕の糧になってもらおう。

「”ファイアボール”」

ゴブリンに向けた手のひらから火の玉が飛び出す。

狙い違わず火の玉はゴブリンの顔へ直撃する。

ーーグギャァァァァァッッ!!

顔を抑えてのたうちまわるゴブリンは、やがて動きを止め姿を消す。

経験値……白い煙が僕の体に吸い込まれる。

「……一発? えっ、魔法って、こんな強いんです?」

異世界モップで切り裂きまくっていたし、バケツヘルムで属性攻撃無効だったからあまり魔法が強いというイメージがなかった。

「まあ……そこそこ、じゃな? 今回は不意打ちで頭部に当てているからの、正直お主が後ろから殴ってもゴブリンなら一発じゃし。それからゴブリンは魔法耐性がないというのも大きいのじゃ。例えば人間にそれを当てたとしても、一撃で死ぬことはまずないじゃろうな」

「なるほど……でも、ダメージソースとしては期待できる感じですかね」

「ま、そのあたりはおいおい確認していくと良いのじゃ……ほれ、次がきたのじゃ」

前から歩いて来るのは、同じくノーマルゴブリン。

「……”ファイアボール”」

手のひらを向けて同じように火の玉を飛ばす。

「……あれ? って、そうか、ゴブリンだってそりゃ躱すよな」

ごろんと地面を転がり周り、火の玉を避けたゴブリン。

僕の飛ばす火の玉のスピードは速いには速いけど、言ってみれば高校生のピッチャーの球速くらいの感じだ。

サッカーボール大のものが、その速度で飛んで来たって、躱せないってことはないだろう。

「”ファイアボール”」

体勢を崩したままのゴブリンに、今度は火の玉が命中する。

ーーグギャァァァァ!!

だけど、当たったのは肩だ。

苦しんでいる様子はあるけれど、ゴブリンがこちらに接近する動きは止まらない。

「”ファイアボール”」

もう一発。

ーーグギャァァァァァッッ!!

今度は胸元に当たった。

後方に倒れたゴブリンは胸元をかきむしり、やがて動きを止めた。

僕に飛び込んで来る白い煙。

「ふうっっ……結構、魔法で戦うのって、大変なんですね」

魔法を打つたびに迫ってくる魔物ってのは、思ってた以上に迫力を感じるものだった。

「そうじゃな。タカシはゴブリンに迫られても近接戦闘でなんとでもできるからまだ余裕があるわけじゃが……これが迫られればやられる可能性のあるモンスターとなると、もっと感じるものは違うはずじゃよ」

「それは……そうですね。魔法って便利だけど、万能じゃないって訳ですね……」

「それがわかれば何よりじゃ……さて、もう少しいくかの……」

アシュリーとともに、僕は初心者ダンジョンをどんどんと先へと進んだ。

 

 

10匹ほどのゴブリンを魔法で倒した僕。

今目の前には、ゴブリンアーチャーがいる。

「”ファイアボール”……ぁあっ、また外した!」

すばしっこいアーチャーゴブリンに当たってしまい、僕のファイアボールが避けられること数発。

「あ、ようやく当たった!!!」

ファイアボールがアーチャーゴブリンを捕らえる。

少し頭と体がふらっとする感覚を覚えるけど……

「もう一発当てればおしまいだな……」

僕は手のひらを前に出し……

「”ファイアボール”」

魔法を唱える。

だけど……

「あれ……」

手のひらから現れることのない火の玉。

そのまま目の前が少しずつ暗くなる。

かすれる視界の中でゆっくりと立ち上がり、僕に向けて弓を構えるアーチャーゴブリン。

これは、まずい……

っとは思うんだけど、体が動かない。

アーチャーゴブリンが弓をひきしぼる。

まずい。

このままじゃ死ぬ。

放たれた矢が僕の眼前に迫り切ったその瞬間……

「……これが魔法の一つの大きな問題じゃな」

びたっっっ! っと止まる矢。

そのシャープな切っ先から伸びる棒の先を追うと、綺麗な手のひらがその根本をつかんでいる。

ふらふらの頭でそのさらに先を追うと、アシュリーが見える。

アシュリーは手に持った矢を指先でヒュっと投げると、凄まじい速度で飛んだ矢がアーチャーゴブリンの上半身を吹き飛ばす。

「……も、もん、だい?」

「うむ、世に普遍にある魔元素じゃが、その変換には体内にある特殊なマジックエナジーと呼ばれるものを使う。そのエナジーが枯渇すると、今のタカシのように動けなくなってしまうのじゃよ」

「これが、マジック、エナジーの、枯渇……」

「のじゃ。これが魔法を使う上で、タカシに経験して置いて欲しかった一つの現象じゃな。スキルの枯渇は意識してしようと思うと意外に難しいのじゃ。タカシもエナジーが枯渇する前に、若干の違和感は覚えておったじゃろ?」

「え、ええ……」

「その違和感を大切にするのじゃ。少しずつ魔元素変換のエナジーは増えるでな……魔法を使うものにとって常に自分の限界のエナジーを知っておくことはとても重要なことなのじゃよ」

「そうですね……敵の前で、こんな状態になったら、どうしようもないですからね……」

頭はフラフラ。

体には力が入らない。

敵と戦うどころか歩くことだってできやしない。

「のじゃ。ま、小一時間ほども休めば、体調は普通に戻るし、後遺症が出るなんてこともないから、その点は心配いらないのじゃ」

「はい……このままちょっと休ませてもらいます」

小一時間ほど休んでいると、アシュリーの言った通り、体調は全くもって普通に戻る。

「……これで、どのくらいマジックエナジーは戻ってるんですか?」

「いい質問じゃな。10%ほどにエナジーが戻ったところで、体調が戻ると言われておるの。タカシの場合なら、2・3発のファイアボール分くらいかのお……」

「なるほど……回復は結構遅いってことですね……」

「のじゃ……一晩寝ればだいたい全快することが普通じゃがの」

「わかりました」

「それじゃ、ここからは体術も解禁じゃ。体術に魔法を補助くらいに使って、立ち回ってみるが良いのじゃ。例のモップを持たない場合は、それがお主の戦闘スタイルにあっておるじゃろうよ」

「了解です!」

僕は動くようになった体でダンジョン探索を再開する。

アシュリーの言った通り、魔法を補助的に使うと攻撃の効率がバカみたいに良くなる。

そのままアシュリーの指導を受けながら、魔法と体術のコンビネーションを練習し、2度目の初心者ダンジョン制覇を達成したのだった。

 

 

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ーー No. PD

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