3−12 魔王様の魔法講義

 

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ーーチュンチュン

 

 

小鳥の小さな鳴き声があたりに響く。

「……これが、朝チュンってやつかあ……」

僕は隣で静かな寝息を立てる美しい少女を眺める。

朝起きたら同じ布団に裸で寝てるスーパー美少女がいるって、地球では考えられなかったことだよな。

「……昨日の、すごかったなあ……」

すごかった……とは言っても別にあれをしたってわけじゃない。

「疲れたじゃろ、マッサージしてやるのじゃ」とのたまうアシュリーにベッドに押し倒され、すんごいマッサージをされたってだけだ。

お互いに素っ裸のままだったら、マッサージをされる間彼女の柔らかい場所がそこかしこと触れてきて、それが気にならなかったといえば嘘になる。

だけど、それより何より、彼女のマッサージテク自体がやばかった。

温泉ですでに緩んでいた体ではあったけど、筋肉の流れを知り尽くしたアシュリーに、ドロドロに溶けるまで体をほぐされてしまったのだ。

おかげで気付いた時には、というか気付かないうちに寝落ち。

睡眠はめちゃくちゃ深くて気持ちよかったし、今の体の調子は異世界にきてから一番いい気がする。

「ぬ……なんじゃ、もう起きていたのか、タカシ……」

後ろを振り返ると、グイーッと伸びをしているアシュリーが目に入る。

「……おはようございます、アシュリー」

一応彼女がシーツを羽織ってるってこともあって、なんとか不自然にならないように返答できた……と思う。

昨日の一連の出来事のおかげで、彼女がこういうのを全く気にしない性格だってのはよくわかっている。

「ああ、おはようなのじゃ。タカシ、起きたのなら早速朝風呂じゃ。ハジメから日本人の朝は朝風呂がなきゃ始まらない、と聞いておるのじゃ」

間違ってるような合ってるような……

何はともあれ、僕は起きたアシュリーと朝風呂に入り、そして朝ごはんを済ませたのだった。

 

 

「さて、今日もまた初心者ダンジョンに戻るわけじゃが……」

「……じゃが?」

「まずは、お待ちかねの魔法の勉強をするとしようかの……」

「魔法っっ! アシュリー、ついに僕、魔法が使えるんですねっっ?」

アシュリーのその言葉に興奮がこみ上げてくる。

ついに僕の手のひらから火が出たり、目から光のビームが出たりするときがきたのだ。

「そうじゃな……まずは”ファイアボール”でもやってみるかの」

「ファイアボール……なんてそれらしい名前……なんて素敵な世界なんだ……」

体の奥底から魔法を使えるという喜びが溢れてくる。

「くくっ、魔法を前にする異世界人は面白いのお……さて、魔法というのはじゃな、この世界のなかに溢れている大量の魔粒子を現象に変える行為のことをいうのじゃ……そんなことを可能にするためには、魔粒子をどうやって変換するのかということを詳しく記述する魔法式を用意してやる必要があるのじゃ」

どうやら魔法というのは唱えればすぐに使えるってものではないらしい。

しかもなにやら小難しい感じ。

「……もしかして、難しい話、になります?」

「魔法発動に際してゼロから魔法式を構築しようと思ったら難しい話になるの。それができるものを本当の魔法使いと呼ぶべきなのじゃろうが、昨今そんなものはほとんどおらんのじゃ。今では我や山の上で寝てる火龍なんかの古代種くらいかの……」

アシュリーが嘆かわしいとでもいいたそうな顔で肩をすくめる。

「それはともかくとして……魔法を使うだけなら、その深淵を理解する必要はないのじゃ。理解することができたならば、魔法の使用効率が良くなったりもするのじゃがな……さて、ファイアボールを使おうと思ったらじゃな……」

アシュリーが木の枝を手に持ち、地面に絵を描き始める。

「使う魔粒子の量の指定、発動するファイアボールの温度、大きさ、飛ばす速度などパラメータの指定をする必要がある。これを行うのが魔法式と呼ばれるものなのじゃ」

「へえ……じゃあ、プログラムの関数みたいなものなのかな」

関数を書いてパラメータをセットして発動させる。

よくあるプログラムの基本セットだ。

「ああ、そうじゃ、ハジメも同じように”ぷろぐらむ”がなんとかとか言っておったのじゃ……さっきも言った通り、魔法式は究極的には自分の頭ので書き上げて発動することが可能じゃが、それは極めて困難なタスクになるのじゃ。したがって、一般的には出来上がっている魔法式を覚えて使うことがほとんどなのじゃ」

「覚えて、使う……でもどうやって?」

「一つは種族特性というものがある、種族の遺伝子とやらに描かれているとかで、気づいた時には勝手に使える魔法式がわかったりするのじゃ。ほれ、魔物は別に勉強せずとも魔法を使うことができるじゃろ? あれは種族特性ということになるのじゃ」

絶望の森でお得意様だったマジックオークのことを思い出す。

確かにあのオークが自分で魔法の勉強をしてるなんてところはちょっと想像できない。

「じゃが、より一般的な方法は魔法書の類じゃな……で、これがファイアボールの魔法書じゃ」

アシュリーが懐から薄い本を取り出す。

「ほれ……読んでみるがよいのじゃ」

「読んでみるって、僕が読めるんですか……? ぁっ、なるほど、こういう感じか……」

開いてみると、この世界の文字の羅列らしきものが書かれている。

もちろんその言葉自体を理解できるわけじゃないんだけど、使い方はわかる……というか目で見た魔法式がそのまま頭の中に刻み込まれたって感じだ。

僕の不思議そうな顔を見て取ったのか、アシュリーが言葉を続ける。

「魔法書は魔法を使えるように、頭に魔法式を刻むこむものなのじゃ。だから、読みさえすれば、魔法を使えるようになるのじゃ」

「なるほど、魔法書は”ソフトウエア”で”インストール”しちゃえば使えるようになるって感じか……それってめちゃくちゃ便利じゃないですか」

「ここはちょうど岩場で燃え広がる危険もないし、ほれ、使ってみるのじゃ」

「はい」

ドキドキしながら、僕は右手を前に出す。

「……”ファイアボール”……ぉぉぉぉぉおおおおおおおっっっっ!!!!! 手のひらからっっ、手のひらから、火の玉がぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」

脳に刻まれた言葉を唱えると、サッカーボールサイズの炎の球が手のひらから飛び出す。

速度はさほどでもないけれど、岩に当たった火炎球ははっきりと焦げ跡を作る。

「すごいっ、すごいですよっ、アシュリーっっ!」

「良かったのう……ま、タカシが今使ったのが基本のファイアボールということになるのじゃ。魔法書の言葉が理解できるのならば、威力やら速度やらいじることは可能なのじゃが……変にいじると発動しなくなったりもするから、この世界のものでもそのまま使ってる場合がほとんどじゃな」

「ああ……プログラムも下手な人が手を加えると動かなっちゃったりしますからねえ」

「それはよくわからんのじゃが……まあ、きっとそういうものなのじゃろうな」

通じなかったか。

説明を終えたアシュリーが立ち上がる。

「……さて、お勉強の後は実習じゃな……」

 

 

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ーー No. PD

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