3−15 シルヴィーとビーチで

 

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青い空、碧い海、白い砂浜……

そして……

「リート……くる、です……」

恥ずかしそうに僕に手を差し伸べてくる美少女。

今日は彼女の真っ白な肌を、白のワンピースで包んでいる。

「う、うん……シルヴィー……」

彼女の手をとり綺麗な砂浜へと歩き出す。

海の奏でる音色を聴きながら、シルヴィーとゆっくりと歩く。

なんだかよく分からないけど胸がドキドキして楽しい。

「ここ、綺麗でしょ?」

「う、うん……そうだね、とても綺麗だと思うよ」

目の前に広がる白い砂浜、そして碧い海は確かに綺麗だ。

でも、その前を歩いている君が一番綺麗なんだ……

……って僕、何変なこと考えてるんだろ。

こんなこと考えちゃうなんて、今日はちょっと調子がおかしいな。

この、海、そしてビーチという場所は、ちょっと人の感覚をおかしくする場所なのかもしれない。

「リート……」

そんな僕の目の前に近づいてくる整ったシルヴィーの顔が……

「は、はいっ……」

少しずつ大きくなって……

「いくです……」

「はいっっ、き、きてくださいっっ!!」

僕は目をぎゅっと瞑る。

「…………きて、です?」

「……え?」

僕が目を開くと、キョトンとした顔で首をかしげるシルヴィーがいた。

「早く、メッコの栽培地を、見に、”いくです”?」

「あ、そう、そうだったよね。そういえば、そんな話だったね……」

「変なリート、です……」

 

流行病は完全に落ち着きを見せ、僕は公爵邸のトイレへのノビーちゃんのセットを無事済ませた。

まだ少し匂いは残ってるけど、ノビーちゃんのおかげでどんどんと公爵邸のトイレは快適空間に変わりつつある。

というわけで完全にお役御免になった僕なんだけど、イーズレリを発つ前にシルヴィーがイーズレリの案内をしてくれているのだ。

今は砂浜を歩き、メッコの栽培地に向かっているところだ。

あの美味しいメッコがどういう風に作られてるのかは、是非とも見ておきたかったので嬉しい。

ちなみにスラくんとゲルくんは公爵邸でお留守番。

念のため『スライム共有』したセバスさんに面倒をみてもらっている。

「……それで、私の職業は『聖なる癒し手』だった、です」

「うわー、すごそうな名前。それってもしかして、スーパーレアの職業じゃないの?」

「はい。ここ最近は、見つかっていなかった、スーパーレアの職業なのです……」

「そうなんだね。どんなことができる職業なの?」

「最上位の回復魔法が使える、です。それから、特殊回復系の職業スキルも、たくさん得られるみたい、です……」

それはとてもすごそうな職業だ。

だというのに、そういうシルヴィーの顔はさほど嬉しそうじゃない。

スーパーレアの強力な職業を得たってのにどうしたんだろう?

「……何か、問題でもあるの?」

シルヴィーはこくりと頷く。

「はい……オクサルビ教会の調べによると、『聖なる癒し手』は魔王の活性化と同時に現れる、です」

「な、なるほど……つまり……」

「ん……これから魔王が活動を活発化させていく、可能性がある、です」

「そっかー……僕は戦えない職業だけど、魔王軍が攻めて来たら、何かできるか考えないとなあ」

シルヴィーは恐る恐るといった雰囲気で、僕の顔を覗き込んでくる。

「……リートは怖くない、です?」

「怖いよ……怖いけど……でも、怖がってても、決まっている未来は変わらないからね。僕が変えられるのは、僕の現在と、繋がる僕の未来だけ。そのために今何ができるかだけは、考えておかないとね……」

「うん……私は、ちょっと怖かった、です。私が『聖なる癒し手』を得て、それで、魔王が攻めてくる。私のせいで、魔王が攻めてくるって感じられて……」

そんなことを考えちゃってたのか。

真面目で優しいシルヴィーらしいとは言えるけど……

僕は彼女の肩を掴み、目と目を合わせ向かい合う。

「シルヴィー……それは逆だよ。魔王が攻めてくるって未来はもう決まっていたこと。君が『聖なる癒し手』を得たってことは、それに準備する時間と対策をオクサルビ神様が与えてくれたってことだよ。君のせいで魔王が攻めてくるんじゃない、君のおかげで魔王に対策がうてるんだよ!!」

彼女の碧眼を覗き込むように近づき力説する。

「……リートっ、ちょ、ちょっと、近いっ、ですっ」

冷静さを取り戻した時には、僕は彼女の甘い吐息が直接感じられる距離にまで近づいてしまっていた。

シルヴィーは恥ずかしそうに白い頬を紅潮させて、目を伏せる。

「ご、ごめんっっ! シルヴィー」

「いい、です……それに、ありがと、です……リート」

「うん……でも、メグに続いてシルヴィーもスーパーレア職業か……みんなすごいな」

「ん……メグ? ……女の子のお友達、です?」

「うん。僕の幼馴染の女の子でね、『賢者』の職業を得て、今は王都の職業訓練学校に行ってるんだよ」

「……幼馴染…………侮れないかも、です……」

シルヴィーがボソボソと小さな声で何かを呟く。

「……メグさん、可愛い、です?」

「メグは活発で明るい美少女って感じかな……シルヴィーとはタイプの違う感じだけど、可愛い女の子だよ」

「……タイプ違い、ますます、要注意、です」

「ん? 何か言った?」

「……なんでも、ないです……私も王都リトレの職業訓練学校に入ることになると思うです。リートの幼馴染と友達になれるかも、です」

「そうだね。メグにもシルヴィーが入学するかもって、手紙を書いておくよ」

「ん……よろしく、です……あっ、見えてきたです。あれがメッコの栽培地、です」

「うわぁっっ、すごいっ! 波打ち際が、金色に光ってるよっっ!!」

それは幻想的とも言える光景だった。

波立つ碧い海、真っ白の砂浜、その間を金色の穂が埋め尽くし、潮風に揺れている。

タチーナにいたままじゃ決して見ることのできなかった眺め。

「イーズレリに来れて良かったな……『スライム繁殖師』に感謝しなきゃだな」

「私たちも、リートを迎えられて、幸運だった、です」

僕はシルヴィーと二人ならび、いつまでもその美しい風景を眺め続けていた。

 

 

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ーー No. PD

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