3−10 初めての野営

 

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「これは……」

「結構な数の人ですねえ……」

これまでの道中にいくつかあった休憩所的な場所。

どこもそれなりに冒険者や商人の姿があったものだけど、ここにはすごくたくさんの人がいる。

「何かあったのかもしれないな……ちょっと聞いてこよう」

そういうとホフィンさんは人ごみの中へ姿を消す。

すぐにホフィンさんが戻って来る。

「話を聞いてきたんだがな、どうやらさっきのクレイジーグレズリーがやってくれていたらしい……やつがこの先にあるやや大きい川の橋を落としてくれたらしくてな……」

「ええっっ!? あいつがっ?」

「ああ、北の歩行者用の橋へ回り道するか、復旧を待つかってことになるんだが……馬車の我々は復旧を待つしかないな」

「そうですか」

「ああ、ちなみにクレイジーグリズリーが行方知れずになったせいで、討伐が済むまで復旧の作業員を呼べなかったということらしい。幸い私が狩ってきた奴なはずだからな、ちょっとこの心臓と魔石を見せて来くる……そうしたら、復旧作業員が呼べるはずだ」

「わかりました」

ホフィンさんは彼女のカバンを掴むと、再び人ごみの中に姿を消した。

 

今度は少しの時が経ってから、ホフィンさんが戻って来る。

「死体はないが問題なく認められた。心臓も特徴があるし、このサイズの魔石はそうそう出ないからな」

「良かったです……それじゃあ、復旧の人はすぐにこれるんですね?」

「ああ、だが……復旧は早くても明日の朝だな。つまり、今日はこのままここで野営をするってことになる……」

「わかりました……」

初めての野営。

ちょっとドキドキしてくる。

「まあ、野営とは言ってもこの人数だ。同じようにこのまま足止めされるものがほとんどだろうし、ちょっとした村で泊まるようなものだな」

「そうですか……すぐに野営の準備に入りますか?」

「ああ、これからもっと人が増えるだろうしな……今のうちにいい場所を見繕っておいた方がいいだろう」

僕たちは馬車を引いて休憩所の奥へと向かった。

「姐さん、坊ちゃん……わっしはここで馬車と一緒に泊まらさせてもらいますね」

「ああ」

「わかりました、また明日」

御者さんから少し離れたところに、ちょうど良い広さの空き地がある。

「ここでいいだろう。さて……君も簡易宿泊セットはあるようだが。今回は私のテントを使おう、少しいいものを持っているからな」

「え、使おうって……一緒にってこと、ですか?」

「ああ、護衛の必要があるからな。魔物からなら隣のテントからでもすぐ駆けつけらるが、こういう場所は人が危ない。これからもっと数が増えるとただ歩いてるだけなのか、獲物を物色してる奴なのか見分けがつきにくくなる。同じテントにいればS級でも来なければ問題なく対応できる」

「ああ、なるほど……」

それは一理ある。

だけど……

犬人族の魅力的なお姉さんと言っていいホフィンさん……

本当に彼女と同じテントに泊まっちゃっていいの?

っとドキドキしていると……

「……なんだ、心配するな。いくら私が独り身とはいえ、君くらいの年頃の人族の男の子は襲わんよ……発情期でもなければな」

独り身だったらしいホフィンさんが、ニヤッと笑う。

「そ、そんな心配はしてませんよっ……むしろ逆の心配はないんですか? ホフィンさんは、年頃の、その、綺麗なお姉さんなわけですし……」

「くくっ、この私を綺麗と言ってくれるか……なかなか嬉しいものだな、なんだったら本当に一発お相手をしようか? 熊を狩ってムラついていないわけではない……」

ぐっと近づいて来るホフィンさん。

ホフィンさんからは、甘酸っぱいいい匂いがふわっと漂う。

「……や、やめてくださいよっっ」

顔がカーッと熱くなる。

頬が真っ赤に染まっちゃってること間違いない。

「おやおや、振られてしまったか……ま、冗談はこれくらいにして、テントを立てることにしようか。少し構造は変わっているが、組み立て方はリートくんの持っているものと変わらないはずだよ」

ホフィンさんは慣れた様子でテントを組み立てていく。

わかりやすく説明しながら立ててくれたから、次の時には自分一人でも組み立てられそうだ。

もちろんホフィンさんみたいに手早くは無理だろうけど。

「よし、こんな感じだな……さ、中に入ってみるといい」

「はい、失礼しまーす……あ、中は結構広い……」

円錐形のテントは思いの外スペースがある。

ちょっとした作業をするのにはなんの問題もなさそう。

「今回の一番大切な荷物をここに……」

奥の安全そうなところに、【ノービススライム】のノビーちゃんの入ったカゴをおく。

蓋を開けて中を覗くとノビーちゃんは幸せそうにふるふる震えている。

定期的に馬糞にありつけるこの旅は、彼女にとってそうそう悪いものではないのかもしれない。

「それからスラくんと、ゲルツーくんをここに……」

ゲルくんに《寄生》したスラくんを下ろすと、スラくんがゲルくんからふるんと飛び出して来る。

僕の体をスルスルと登り、頭の上の定位置に座る。

「スラくん単体は久しぶりだね……」

頭の上の柔らかいフニフニを優しく撫でる。

残ったゲルくんと、増殖した方のゲルツーくんは、1箇所にまとまってふるふるしている。

あとで生草を拾ってあげることにしよう。

「まだ早い時間だから、何かすることがあればしててもいいが、特にすることがなければ非常食を食べてから寝ておくといい……野営では必ずしも夜の睡眠時間が確保できるとは限らないからな。休める時に休んでおくのが鉄則だ」

「そうですね。結構疲れてもいますし、ホフィンさんの言う通り寝ておくことにします……えっと夜の警戒とかは?」

「魔物の侵入はこれだけの人がいればまず心配ないだろうな。入ってきたとしても、ここにたどり着く前に私が感知できる、寝てたとしてもな。人に関しても同じだ、テントに侵入しようとした瞬間に起きて叩き斬ることが可能だよ」

「わかりました……それじゃ、安心して眠ることにします」

「そうしてくれ」

僕はホフィンさんと非常食の乾パンと干し肉を食べてから、スライムたちに餌だけあげてしまう。

テントに戻った僕は、日が暮れる前から毛布の中に包まれたのだった。

最初は隣に横たわるホフィンさんの匂いと気配にドキドキしたものだけど、床に引いたシートは結構寝心地が良くて眠気を誘う。

僕はすぐに眠りの世界に引き込まれた。

 

 

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ーー No. PD

 

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