3−7 旅立ちの準備をしよう

 

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先日ラインベルト公爵様はシルヴィーと共にタチーナの街を立った。

僕とのしばしの別れをとても残念そうに惜しんでくれたシルヴィー。

幼い頃からメグ以外の友達がほとんどいない僕には、それがとても嬉しかった。

これから僕も公爵様の屋敷にトイレ設置に行くわけだから、またすぐに会えるはずだけど。

彼女にまた会えるその日が楽しみだ。

「それでね……各地を視察されるラインベルト公爵様がイーズレリに到着するのは、2週間後くらいになるんだってさ」

まっすぐ向かえば3日ほどでイーズレリまで到着するみたいだけど、ラインベルト公爵様は公務で各地にたち寄って行く必要があるんだとか。

もちろん僕が公爵様についていってもできることは何もない。

なので、僕は少しタチーナで時間を潰してから、イーズレリに向けて一人で旅立つことにしたのだ。

それはいいんだけど、生まれてからずっとこの街にいた僕にとって、このタチーナを離れるのは初めてのこと。

「とりあえずナーニャさんに教わった初心者用旅セットは手に入れてきたんだけどさ……」

僕がナーニャさんに教わって購入した初心者冒険者向けの旅セットには、緊急時用のお泊まりセット、非常食、軽い着替え、便利道具、なんかがほどほどの大きさのカバンに詰められている。

全部で10万ピノと結構な値段がしたわけだけど、それだけの価値はあるって冒険者経験のあるナーニャさんが言っていた。

ちなみに今回の旅に必要な準備金は、ラインベルト公爵様が全部負担してくれている。

必要なものは遠慮なく買うように、とのことなので甘えさせてもらっている。

「でも、基本的には一緒に旅する冒険者の人が全部準備してくれるらしいから、いたせりつくせりの旅なんだよね……他に何か必要なものってあるのかなあ?」

僕がそう聞いてみると、普段はふるふると震えているだけの相棒から反応がある。

頭の上に乗っていたインテリジェントスライムのスラくん。

彼女はスルスルと僕の体を滑り降りると、玄関へと向かう。

「……外に、いくの?」

──ふるふる

スラくんが体を震わせて肯定する。

玄関の扉を開けてあげると、スラくんが向かったのは中庭の一角だった。

「……スラくんどこいくのさーって、あ、ゲルくんのところか」

スラくんが向かったのは、最近ようやく友好状態に変化し仲間になってくれたアンコモン種【ゲルスライム】のゲルくんのところだった。

なにやらゲルくんの前でふるふると震えていたスラくん。

ピョピョンとこちらに戻り、スルスルと僕の体を這い上がると、定位置の僕の頭の上に戻る。

足元を見ると、ゲルくんが僕の足元にすり寄ってきている。

「……ゲルくんを、旅に連れていくってこと?」

──ふるふる

っと肯定するスラくん。

「まあ、ゲルくんは、安定してるから壊れる可能性も少ないし、連れてっても問題ないかな……スラくん、君はどうする? 君も一緒に行く?」

──ふるふる

スラくんはやはり肯定する。

「でも、君はゲルくんと違って脆いからなあ。ちょっと不安だよ……」

──ふるふるふるふる

「ん? 大丈夫? 君を鑑定しろって?」

最近スラくんの言ってることが、ますます詳しくわかるようになってきている。

「はい、それじゃ……『スライム鑑定』」

頭の中に情報の羅列が流れ込んでくるのにももう慣れた。

ーーー

【インテリジェントスライム(SR)】

名前:スラくん

状態:友好

性別:♀

年齢:2歳

好物:昆虫

モンスタースキル:《溶解液弾》《精神感応》《寄生》

単細胞生物の壁を超えた賢いスライム。優しい人によく懐く。仲良くなることで意思の疎通も可能。多くの進化可能性を秘めている希少なスライムだが、賢さ以外の能力初期値は普通のスライムとさほど変わらない。そのため進化成長する前に死んでしまう場合が多い。

ーーー

「あ、2歳になってる。スラくんおめでとう」

──ふるふる、ふるん

「ありがとう、でもそっちじゃない、って……あ、この《寄生》ってスキルの方のことか」

──ふるふる

小さく震えたスラくんが再び僕の体を降りる。

スラくんはゲルくんに近づくと、そのまま重なる。

「……あっ! 一体化、した……? どうなってるんだ、これ??」

見た目はゲルくんが少し大きくなっただけのように見えるけど……スラくんとゲルくんが2匹いるようには見えない。

──ふるふる

「あ、主体はスラくんになってるってことなんだ。性能はゲルくんのもの、へえ、それじゃあ、この状態だと丈夫で頭のいいスラくんってことになるのか」

──ふるふる

ゲルくんと一体化したまま僕の体を駆け上るスラくん。

その体はいつもよりも少し重い。

「ずっとゲルくんと一緒のままで大丈夫なの?」

──ふるんふるん

「ダメなのね。なるほど、食事とか、時々別々になる必要がある……ってことね」

──ふるふる

「そうしたら、安全な場所で食事とかのために分離できるように、いい方法を考えておかないとだね」

スラくんは僕の言葉を肯定するように、頭の上でふるふると震えている。

「そういう意味では新しい【ノービススライム】のノビーちゃんを、どう壊さずにイーズレリまで連れてくか……ちょっと方法を考えないといけないな……」

僕はスラくんと一緒に、ノビーちゃんを壊さないで運べる方法に頭を悩ますのだった。

 

 

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ーー No. PD

 

 

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