2−3 女騎士とオーク退治

 

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「ぶもぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!」

丸太のように太い腕が僕に向かって突っ込んでくる。

「”魔断”!! ぅおおおおおっっっっ!!!」

【異世界モップ】に《魔断ち》のスキルをかけ、雄叫びと共にオークの腕を迎え撃つ。

ーーギンッ

という硬いもの同士がぶつかったような音が響く。

モップに襲いかかってくる凄まじい衝撃に逆らわず、僕は後方へと圧力を逃がすようにジャンプする。

「フィルっ!!」

『おうっっ!! いくぞっっ、はぁぁぁぁぁっっっっ!!』

フィルが異世界語混じりになにやら叫ぶ。

フィルは体勢を崩したオークに突っ込み、上段に構えたロングソードを振り下ろす。

ーーザシュッッ

「ぶももぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

僕の【異世界モップ】とは打ち合えたオークの腕が、あっさりと切り落とされる。

「タカーシっっ!!」

「はいっ!」

僕は再びオークへと飛び込み……

「”魔断”!!」

《魔断ち》をかけた異世界モップをオークの首へと振り下ろす。

僕のモップはさしてダメージを与えた様には見えないけど、オークの首をうっすらと守る薄暗い色のオーラが消える。

ステップバックをする僕の横から飛び込んできたのはフィルだった。

『覚悟っっ!』

凄まじい速度の斬撃がオークの首筋へと走る。

 

次の瞬間。

 

オークの首は斜め前方へと飛び、地面へと転げ落ちた。

 

すぐにその巨体は消え去り、少しピンク混じりの白い煙へと変わる。

大量の煙の半分は、フィルの体へと吸い込まれる。

そしてもう半分は僕のモップへ。

「おっ、タカーシ、私、レベル、上がる」

今度は日本語で話しかけてくるフィル。

フィルは移動中暇だからと日本語を勉強していたりする。

僕も異世界語を学びたいところなんだけど、発音からして全然違くて僕にはとても習得できそうにはない。

「おめでとうございます、フィル」

この魔物から出る煙は魔物の生命力のようなものらしく、倒した人間が吸収することができる。

ゲームでいう経験値のようなものだ。

肉体派の魔物は白い煙、魔法派の魔物は赤い煙が出るんだけど、大抵はその中間のピンク色の煙が出る。

吸い込む色の割合でレベルアップ時のステータスアップに少しだけ影響するそうな。

まあ、レベルアップしない僕には関係のない話だ。

ちなみに特殊系の紫の煙が出るものもいるらしいけど、まだ僕は見たことがない。

「何かスキルは得られましたか?」

「いいえ、今回、ステータスアップ、だけ……タカーシ! オーク肉、オーク肉、ドロップっ!!!」

フィルは興奮して地面を指差す。

「あ、ほんとですねっ! それじゃ、フィルのレベルも上がったことですし、今日はここで休むとしますか……」

僕は地面に落ちた、オークの耳とオークの塊肉を拾う。

「それでは……”展開”」

生えている木も物ともせずに、どんと現れる異世界トイレ。

僕はフィルの手を取ると、異世界トイレの入り口をくぐった。

 

 

 

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オーク耳を今は倉庫に使っている真ん中の個室に投げ込み、洗面所の前に並べた大石の上に座る。

隣の大石にはフィルが座っている。

そして僕らの前に置いたDIYしたテーブルには、オーク肉とリンゴのような果物が乗せてある。

「日本語も少しはわかるようになってきたけど、やっぱりこの中で話す方が全然楽だな」

「そうですね……でも、フィルはすごいですよね。もう日本語だいぶわかるようになってますよね」

「日本語は単語を並べればある程度なら意思の疎通が取れるのがいいところだな。ディノク語はつながりと並びを変えたら意味が通じなくなってしまう場合も多いから」

「そうなんですね……」

そんな話をしながら、ナイフを使ってオーク肉を小さく切っていく。

フィルは早速オーク肉を一切れ口の中に放り込み、豪快に噛み締めている。

オークを食う女騎士か。

どっちかってとオークに食われる女騎士って設定の方が日本では流行っていたような気がするけど……

「うん、やっぱりオーク肉はうまいな。ゴブリン肉も悪くはないんだけど……後は焼くだけでもいいから料理ができるといいんだが……」

生肉を噛みしめるブロンド美女ってのは、一部には需要のありそうな光景でもある。

僕はどちらかといえばいける方だ……

 

ちなみに魔物の肉だけど……生で食えないことはないけど、高い確率で腹を壊すそうだ。

それを僕が平気で食べていられていたのは、一緒に飲んでいた【ポーション水】のおかげだったらしい。

ちょうどフィルがその【ポーション水】をペットボトルからごくごくと飲み込む。

水を入れる容器はまだペットボトルしかないから、当たり前のように二人で使ってるんだけど……僕は未だにフィルとの間接キスにドキドキしてしまう。

文化が違うからか、フィルは全く気にした様子は見せないけど。

僕はオーク肉を一つ口の中に放り込む。

「日本だとこの味は高級な豚肉ってとこかな……」

「豚肉はこの世界にもあるけれど、ここまで濃厚な味はしないな。まあオークのやつはまるっきり豚っぽい見た目だが……しかし、タカーシの世界にはずいぶん美味い動物がいるんだな」

「そうですね、味が良くなるように数世代をかけて品種改良とかしてたようなので……逆に言うとそのレベルで最初から美味しい魔物はいいですね」

「言われてみれば、そうだな……」

フィルはにっこりと笑いながら、オーク肉に手を伸ばす。

あっという間にテーブルの上からオーク肉がなくなる。

「森の奥に入れるようになって、このアポールとか果物が手に入るのは良かったよな」

「そうですね……ちょっと文明を取り戻した気分です。フィルのおかげですね……」

オークの領域まで分け入った僕たちは、果樹の果物を取れるようになっていた。

僕一人だったら食べられる果物なのかわからなかったけど、フィルはしっかりとそのあたりの知識があって、簡単に食べられる果物を見分けてくれた。

「それを言うなら今こうして生きていられるのは、そもそもタカーシのおかげだからな……それに、オークがあんなに簡単に倒せるのもタカーシのスキルのおかげだな。私一人だと少しずつ削っていくしか戦う方法はない……」

「そうですねえ……まさかあの柔らかそうなオークが、魔法でガッチガチに防御固めてるなんて知りませんでしたよ。フィルと出会う前に突っ込んでたら、普通に負けていたかもしれません……しかし《魔断ち》で防御魔法が解除できたのは僥倖でした」

「そうだな……タカーシが《魔断ち》を使ってくれればオークはバターみたいに柔らかい。きっと《魔断ち》のスキルは高位の魔物にもかなり有効だと思うぞ? 奴らは軒並み魔法で防御強化をしてるからな」

「そうですか……高位の魔物……やっぱり、これから出てきますかね?」

フィルが少しだけ表情を険しいものにする。

「ああ……絶望の森は中心の火山に近づけば近づくほど、高位の魔物が生息していると言われている。火山に住んでいる火龍が一つの頂点だな」

砂漠近くからでも見えたあの巨大なドラゴンのことを思い出す。

「はい、あの火龍には近づきたくもないですよ……」

「そして魔王……どこに住んでいるのかは定かではないが、おそらく中心域のどこかにはいるのだろう」

フィルの表情が曇る。

部下を皆殺しにされたわけだから、思うところはあるのだろう。

まあ中立な立場から見るならば、自分を殺しにきた軍隊を殲滅することに問題があるとは思えない。

だけど、フィルにとってはとても大切な部下だったんだろうから。

 

とはいえ、そろそろフィルの事情を聞いてもいい頃なのかもしれない。

「フィル……聞いてもいいですか?」

「ん? ……何をだ?」

「フィルがここに来た……理由です……」

しばらくの沈黙。

そして……

「………………そうだな」

フィルは重い口を開いた。

 

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ーーNo. PD

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