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「タカーシュっ……おはよー」
ブロンドヘアを乱したままの女騎士、フィリス・モートンが右側の個室から出てくる。
「ああ、そんな格好で出てこないでっ、しっかり服を着てくださいよっ、フィル……それに、タカーシュじゃなくてタカシですよ」
彼女は大きな胸を鎧下を割いて作った白布で包んでいるだけ。
下半身だって同様に鎧下だったものの一部を、ショートパンツのように履いているだけだ。
彼女の鍛えられた白い太ももが、結構際どいところまで見えてしまっている。
こんな場所で発散の手段が限らている僕には、ちょっと、いやかなりの目の毒だ。
「別にいいじゃないか、タカーシュ……じゃなくてタカーシにはもう中身まで見られちゃってるんだし」
フィルはそんなことを言いながらニコッと笑う。
別に根に持ってるわけじゃないんだろうけど、彼女は事あるごとにあの治療の日の事でからかってくる。
あれが見えちゃってたのはもともとで不可抗力だったんだし、そろそろ忘れて欲しいところなんだけど。
それに、中身まで見たとはいうけれど、上の片方だけであって下まで見たわけじゃない。
「それはっ、そうですけど……ってそういう問題じゃないでしょう。ああ、もうっ、最初の真面目だったあのフィリスさんはどこに行ってしまったんですか」
「タカーシは変わらず真面目なままだな。その堅苦しい喋り方もやめないし……」
そうは言われても、フィルのような年上のブロンド美人にとてもタメ口なんてきけない。
「……まあいいけどさ、さて、私は朝のトイレだトイレ……タカーシは、外に出ててくれよっ」
彼女はちょっとだけ恥ずかしそうな顔をすると、そのまま一番左側の個室へと消える。
「わかりましたよっ」
彼女とはだいぶ気安い間柄になったとはいえ、さすがに女性の朝のトイレの音を聞くのは忍びない。
僕は言われるがままに、【異世界モップ】を片手に公衆トイレの外へと出た。
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ゴブリンが出てこないか森の方向を警戒していると……
『トゥルーン……異世界トイレのレベルが5に上がりました』
例の音声が脳内に流れる。
「おおっ! ようやくレベルが5に上がったか……しかし、フィルのトイレでレベルが上がるって、なんかこう変にくるものがあるよな……」
ちょっと変態的な発想ではあるけど、同じように感じてしまう男はそれなりにいると思う。
彼女と生活するようになってしばらくの時が経つけど、異世界トイレのレベルが上がるのはこれで二度目だ。
僕一人だった時のレベルアップより少し早かったかもしれないけど、今は二人でトイレを使ってることを考えると、レベルアップ効率自体はまあ大して変わってはいないのかもしれない。
ちなみに彼女が来てから最初のレベルアップは、彼女が異世界トイレの住人になって初めて水洗トイレを使用した時だった。
あの時は異世界トイレがレベル3に上がってすぐだったから、きっと経験値の蓄積ではなくて、新しいユーザー、つまりフィルが初めてトイレを使ったことによるボーナスかなんかだったんだと思う。
その時のレベルアップの特典は、個室のアップグレードを選択した。
フィルと二人で暮らすのには、というか女の子が暮らすには、今の異世界トイレのままではちょっと不便だと思ったから。
アップグレードしたからと言って、何が出るかはもちろんわかんなかったんだけど、蓋を開けてみたらそれはとても都合のいいものだった。
「まさか、トイレの個室がベッドルームになるだなんてね……」
そう、アップグレードを選択した右側の個室。
その個室の中にベッドやら棚やらが追加されたのだ。
トイレであることをアピールするかのように、端っこの壁にちっさなトイレはついていたのだけど、それさえみなければまあ狭いけれど立派なベッドルームと言って良さそうだった。
フィルはその壁のトイレは使うことなく、僕と同じく左側の個室をトイレとして使っている。
そう、僕は女の子であるフィルにベッドルームは譲った。
僕は簡易ベッドに結構慣れちゃってたし、彼女には女性としてのプライバシーも必要だろうしね。
僕は僕でフィルが個室にこもってる限り、ちょっとした溜まり物の処理なんかはできちゃったりするので、結局ウインウインなのだ。
そんなわけで、個室がアップグレードできてから少しの時が流れたのだけど、こうして今日無事二度目のレベルアップができたというわけだ。
『レベルアップ特典を選んでください
1 Lv.5限定特典
』
……ん?
……限定特典?
っていうことは、今回はこれしか選べないのか。
それじゃあ、まあこれを選ぶしかないってことだな。
脳内で限定特典を意識するようにして選択する。
『Lv.5限定特典が選択されました。《異世界トイレ収納》のスキルが使用可能になりました』
そんな音声案内と同時に《異世界トイレ収納》の使い方が頭の中に流れ込んでくる。
「へえ……この効果なら、動けるな……」
「dfsalj fweoplkj fsdufhweo」
謎の言語とともに、顔の横に整ったブロンド美人の顔がひょっこりと出てくる。
「うわぁっ!」
「タカーシ、poidfslk werxdf phoigaweofj」
ニヤニヤと笑ってるフィルだから、僕を驚かせられたことに喜んでるんだろう。
そんな顔でも可愛いんだけなんだから、ブロンド美人は得だ。
僕はフィルの肩を軽く叩いてから異世界トイレの方向を指差し、戻ろうと合図をする。
頷いたフィルは、僕の差し出した手のひらを握る。
僕たちはそのまま異世界トイレの扉をくぐり、フィルに話しかける。
「驚かせないでくださいよ」
「ふふ……タカーシをからかうの、楽しいんだもの」
ニヤッと笑うフィル。
「それで、なにを嬉しそうに独り言喋ってたんだ?」
「それがですね、今ちょうど異世界トイレのレベルが上がったんですよ」
「えっ、本当にっ? 今回の特典は何にするんだ? また個室のアップグレードかっ?」
よっぽど今のベッドルームが気に入っているのか、フィルは次の特典に個室のアップグレードを押してくる。
「いえ……今回はレベル5で固定報酬でした」
「ああ……その辺は人のレベルと一緒なんだな?」
「そうなん、ですか?」
なぜだか全くレベルの上がらない僕にはわからない。
この世界はよくある異世界ものよろしくレベル制の世界だったようなのだけど、僕のレベルは何匹のモンスターを狩ろうとも上がることはなかった。
まあ異世界トイレのアップグレードで自己強化はできるからいいんだけどさ。
「ああ。レベル5に上がると固有スキルがもらえるんだ。私の場合はこの防御魔法だな……”拒絶の光”」
フィルの体があの時と同じように白い光に包まれる。
「普通のスキルに比べて、強力なことが多いんだ。これも敵対的攻撃のほとんどを防御してくれる……それで、タカーシはどんなスキルが得られたんだ?」
「はい。僕が得たスキルは《異世界トイレ収納》というものです」
「収納……ってどういうことだ?」
「それは……実際にやってみましょうか」
僕はフィルとともに異世界トイレの外に出る。
このままだとフィルには異世界トイレが見えないので、彼女と手を繋ぐ。
「slkfabe coladfiu タカーシasdfapihgae, podjfasdfkj」
不思議そうな顔をして異世界トイレを見上げているフィル。
僕にはバッチリ見えている異世界トイレだけど、この世界の人間には認識することができないという隠蔽能力が付加されている。
というか、条件を満たさなければ触れることすらできないから、僕から見ているとトイレを幽霊のように素通りするフィルが見れたりする。
そして、条件というのは僕と密着していること。
フィルのようなブロンド美人と合法的に手を繋げるんだから、ラッキーな条件と言っていいだろう。
「それじゃ行きますよ……”収納っ”」
僕の目の前で異世界トイレが白い光に包まれる。
そのどことなく神聖な強い光が消えると同時に、異世界トイレの姿は消え失せていた。
「saplwwdded faseroij asdfapwoihg ….」
フィルはびっくりしたように何かを呟いている。
このままだと会話ができないので、僕は反対側を向くと……
「……”展開”」
解放の呪を唱える。
目の前が白い光に包まれ、先ほどと少しずれた位置にあらわれる異世界トイレ。
思った通り、このスキルを使えば異世界トイレの持ち運びができるようだ。
僕はフィルを促して、異世界トイレの中に戻る。
「つまり、このデカブツを収納ができるってスキルなわけか……」
「そうです……しかも、解放する場所は同じ場所じゃなくて良いようなので……」
「異世界トイレと一緒に私たちは移動できるようになった、ということか……?」
「そうだと思います。今までは異世界トイレから遠くにはいけませんでしたが、これからはもっと遠出ができるってことになります」
「そうだな……それじゃ……」
この辺鄙な場所で異世界トイレは僕たちの生命線といってよかった。
必然、僕らはこの場所にとどまっている必要があった。
だけど……これからは違う。
僕は何かを考えこんでいるフィルと、話し合う必要がありそうだった。
ーーNo. PD
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