2−1 女騎士を助けよう

 

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腕に抱えた柔らかな体をあまり揺らさないように気をつけながら、異世界トイレの入り口をくぐる。

「うぅうっっ……魔王めっ……」

悪夢を見ているのか朦朧としているのか、腕の中でぐったりとした彼女は、小さな呻き声を漏らしている。

外で彼女を拾った時とは違って、どうやら再び日本語で話をしているようで、彼女が魔王に何やら言いたいことがあるってのは理解ができる。

「簡易のものですけど、ベッドに寝かせますね……」

彼女に声をかけながら、僕の枯れ草ベッドに彼女の体を横たえる。

「うぅ……」

寝転がった彼女からは反応らしい反応はなく、体の痛みに耐えるように身をよじらせている。

体のどこか、というかいたるところに怪我をしてしまっているようだ。

然もありなん、だろう……爆心地から外れていたとはいえ、彼女は魔王のあの凄まじい一撃の余波を受けているんだから。

僕は彼女の治療のために、ゴツイ騎士鎧を脱がせることにする。

「ごめんなさい……脱がせますね……」

一応一言声をかけ、彼女の鎧の留め具を外していく。

鎧を脱がせるなんてもちろん慣れない作業だし、所々金属がゆがんでいたりもしてたけど……悪戦苦闘の末になんとか彼女の鎧を全て外すことができた。

 

鎧を外すと、中から彼女本来の女性らしい匂いがむわっと強く立ち上がってくる。

そのセクシーな香りにちょっとドキドキしてしまうし、なんなら少し悪いことをしてしまっているような気すらしてくる。

「……これは治療っ! 治療なんだからっ!」

自分にそう言い聞かせながら彼女の鎧下をチェックしていく。

何箇所か血が滲んでいるのが見える場所があるし、その一つからはかなり大量の出血が見られる。

「下手に鎧下を脱がせるよりも、このまま【ポーション水】でじゃぶつけにしちゃうのがいいかな……」

空調が完璧に整えられたこの異世界トイレの環境。

【ポーション水】でじゃぶつけにしたからといって風邪を引くこともあるまい。

僕は【ポーション水】を詰めたペットボトルを取り出す。

切り裂かれた鎧下の胸元からこぼれている立派なもの。

それなるべき気にかけないようにしながら、彼女の体へと【ポーション水】をかけていく。

鎧下の生地は比較的薄めに作られているようで、鎧下がピタリと彼女の体に張り付き、メリハリのある体の凹凸が見えてきてしまう。

「こ、これは……目に毒だ……」

転移前の地球でのそっち方面の経験値はあまり高くない。

正直に言ってしまえば、このままむしゃぶりついてしまいたい。

濡れる女騎士さんは、そのくらいの魅力に溢れていた。

「なんにしても外傷の方は……これで、大丈夫そうだな……」

【ポーション水】は見るからに効き目を発揮している。

鎧下の血に汚れていた場所は洗い流され、新たな出血が溢れてきている様子はない。

「後は……」

僕は彼女の口元にペットボトルを寄せ、【ポーション水】を少量注いでみる。

体にやばいダメージがあるときには、【ポーション水】は飲んだ方が効果が高いから。

だけど……注いだ【ポーション水】は彼女の口から吐き出されてしまい、一向に彼女が飲み込んでくれる気配はない。

「やっぱり、あれ……しかないよな……」

僕はポーション水でしっとりと濡れる彼女の唇に目をやる。

程よくふんわりと盛り上がる紅色の唇。

とても美味しそう……

「じゃなくてっ……他意はないんだから。これは、治療なんだから……」

僕は自分にそう言い聞かせつつ、【ポーション水】を口に含み……

目をつむったままの女騎士へと唇を近づけていく。

ーーふわっ

っとやわらかく、しっとりと濡れた唇。

僕はその唇を舌を使って割り開く。

閉じようとする唇を舌を挟み入れて固定し、口の中に貯めた【ポーション水】を流し込む。

「……ん、ぅんっ……」

反射なのか【ポーション水】を吐き出そうとする彼女の唇を唇で強く抑える。

「ぅうぅっっ……」

やがて……

ーーこくこくっ

っと彼女の喉元が動く。

「ふう……飲み込んでくれたか……」

僕はペットボトルと彼女の唇を往復し、数度同じ行為を繰り返す。

 

その効果は劇的だった。

荒かった彼女の息は落ち着き、険しかった彼女の顔も安らかなものへと変わる。

そのまま彼女は穏やかな寝息を立て始めたのだった。

「……これで大丈夫そうだな」

僕は立ち上がると、彼女の眠る簡易ベッドから離れる。

「……それじゃ情けないけど、自分で処理するとしますか」

僕はトイレの個室へ入ると、不可抗力に滾ってしまったものを自分で慰めたのだった。

 

 

 

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枯れ草のベッドの上、身じろぎした女騎士が薄く目を開ける。

「……ここは」

彼女はそのまましばらく天井を見つめる。

「……ん?」

何かの違和感を感じているのだろうか、彼女の指先が唇へと触れ、そして胸元へと伸びる。

むき出しだった彼女の胸は、今はトイレットペーパーで包まれている。

目を見開いた彼女に、頃合だろうと僕は声をかける。

「あの……体は大丈夫ですか?」

僕の声に彼女は首を回し、こちらをふりむく。

曇り一つない白い肌。

サラサラストレートのブロンドの髪。

細く伸びる同色の眉毛。

負けん気の強そうな大きな瞳。

形のいい小鼻。

そして……治療とはいえ、先ほど唇を合わせてしまったばかりの紅色の唇。

目をつぶって眠っていた時だってまあそうだったけど、どこのハリウッド女優だっていうレベルのとんでもない美人女騎士だ。

「……ここは?」

「えっと、どこかと言われるとちょっと難しいんですが、場所としては貴方が戦っていた死の砂漠と絶望の森の間になります」

「……戦っていた? ……っっ!? 魔王はっっ!? 我が軍はどうなったっっ!?」

彼女は枯れ草ベッドから跳ね起きるとこちらに向き直り、矢継ぎ早に質問を飛ばしてくる。

おかげでトイレットペーパーに包まれていた彼女の立派な逸品が、再びご開帳してしまっている。

僕は慌ててバッと首を彼女の逆側に回す。

「……どうかしたのか?」

「……そ、その、そこが……貴方の服が切れてしまっていたので、紙で包んでいたのですけど」

僕は彼女の方を見ないようにしながら、彼女の胸元を指差す。

女騎士は僕の指に誘導されるようにして、視線を下に下げる。

そして、こぼれ出ているものに気づいたのだろう……

「そこ……? あっ、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

女騎士は気の強そうな顔立ちとは相反する、可愛らしい悲鳴をあげる。

彼女は慌てて腕で立派な胸を隠す。

僕は彼女の逆側を向いたまま、そんな彼女にトイレットペーパーを渡す。

「ちょっと他に隠せるものがないので……これを使ってもらっていいですか? 紙ですが、その、隠すことはできると思うので……」

「すまない……使わせてもらう……もうしばらくそちらを向いていてくれ」

シュルシュルとトイレットペーパーが外される音、そして紙同士が擦れ合うような音がする。

「……いいぞ」

僕は彼女の方を向きなおる。

そこにはトイレットペーパーを胸元に数重に巻きつけた彼女の姿があった。

治療中にその中身はすでに見ちゃってるわけなんだけど、トイレットペーパーに包まれた胸っていうのも正直ちょっとくるものがあるな……

なんてことを思いつつも、顔を真面目なものに戻す。

僕はこれから彼女にとってショックな事実を教えなければいけないから。

「それでですね……貴方達が戦っていた魔王なんですが、あの魔法を使った後に、森に戻って行きました……貴方の軍は、その……」

言い淀む僕に察したのだろう。

彼女は大きな目を悲しそうに伏せる。

「……僕が見つけられた、まだ動いている人は、貴方だけでした」

「……そうか……全滅か…………」

彼女は肩を落とす。

「いや……あの魔王の闇魔法の衝撃は凄まじかった。私が助かったことの方が不思議なくらいだな。運が良かったのだろう……直前に張った防御魔法が少しは効いたのかもしれないが……」

「そうですね……鎧はひしゃげちゃってましたし、貴方の怪我もなかなかにひどいものでしたから……」

「そうだったのか……? その割には体に痛みなどはないのだが……」

彼女は確認するようにペタペタと体を触っていく。

「僕の持ってる【ポーション水】を使ったんです。すごく効き目がいいものなので……」

「それは……すまない。貴重なものだったろうに……」

「いえ……たくさんあるものなので、それは問題ないですよ」

「……そうなのか? 重症を治せるポーションなど、かなりの高額になると思うのだが……」

「そこはちょっと事情がありまして……」

僕はちらりと洗面台の方を見る。

水道から出てくる水が【ポーション水】になるだなんて、どう説明したらいいのかわからない。

女騎士さんも僕に何かしら事情があるのかと思ったのか、それ以上聞いてくることはなかった。

 

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ーーNo. PD

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