4−7 薬草採取エキスパートになって冒険者ランクアップ

 

 

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「おいっ、相棒よっ、あそこを見てみろっ! 薬草スライムのやつが来たぜっ!」

「ああ、間違いねーな、相棒っ、身体にスライムを貼り付けて歩いてるやつなんて、このあたりには一人しかいないからなっ、間違いねーぜっ……おいっ薬草のっ!」

僕が冒険者ギルドに足を踏み入れると、奥のバーでエール酒をあおっていた二人組が声をかけてくる。

いかついその外見と粗野な態度にドキドキしてしまうけど、ぐっと近づいてくる男たちはどうみても満面の笑顔だ……その深い笑みがまた怖かったりするわけだけど。

「いつも薬草仕入れてくれてありがとうよっ! お前のおかげでここのギルドでは回復薬の入手に困らねーんだよっ、しかも最近だと安くなってきてまでいるしなっ!!」

「え、あっ、ああ……はい。いえいえ、こちらこそ使ってくれる人がいるから薬草依頼を受けられるわけで……その、ありがとう、ございます?」

「ああ、お互いにいい関係で良いもんだな。ってなんでそんなビビってるんだよ?」

「おめーの顔がこえーからだろっ、相棒よっ。声もでけーんだよっ。こいつはー礼儀がなってなくていかんのだよな、すまんなっ、薬草のっ」

と言っている彼の圧迫感も相当なわけだけど、別に彼らに悪気があるわけではないのだ。

……ただ顔と口調が怖いだけで。

「そっかそっか、相棒よっ……すまなかったなっ! 薬草スライムのっ!」

「いえいえー。それでは……」

「ああ、じゃあなっ! 飲めるようになったらいっぱいおごらせてくれよなっ!」

「はい、そのときにはっ」

楽しそうに飲みに戻る二人組を背に、僕は受付のアリスさんのもとへと向かう。

「いらっしゃい、リートくん」

「アリスさん、こんにちは」

「ふふ、リートくんが、ゴンザロさんたちと話してると、まるで絡まれてるようにしかみえませんねえ」

「そ、そうですよね。お二人とも大きいですし……そ、その、お顔も厳ついですからね」

「ふふ、あの見た目で面倒見の良い優秀な冒険者なんですけどね。タチーナの冒険者ギルドでは余りお目にかかることのないB級冒険者チームなわけですし……見た目は怖いですけど」

「そうですよね……見た目だけは怖いですよね、あ、口調も……」

「はい……」

ガクッと頭を落としながらふざけるアリスさん。

とはいえ、ゴンザロさんたちがこのタチーナにとって重要な冒険者ってのは本当だ。

以前イーズレリのラインベルト公爵家を訪ねたときに護衛をしてくれたホフィンさんはA級冒険者だったわけだけど、彼女は世界を飛び回る冒険者なのであって、タチーナにずっといるわけではない。

その点ゴンザロさんたちはタチーナ密着型の冒険者だ。

このあたりにはぐれの強い魔物が出たときなどの緊急事態に、すぐさま対応してくる心強いベテラン冒険者コンビなのだ。

タチーナにはそんなに高ランクの依頼はないから、普段はあーして酒場で飲んでいることが多いのだけど。

「さて、リートくんもそんな先輩たちに一歩近づく時ですね。今日もモンゴロ草、バッチリですよね?」

「はい……こちらを、お願いします」

僕はズタ袋からモンゴロ草の束を100本取り出し、アリスさんに手渡す。慣れた様子でそれを奥に運んだアリスさんはすぐにこちらへ戻ってくる。

「……って一歩近づくってなんですか?」

「はい、今日で薬草採取依頼の達成が冒険者ランク昇級の規定ポイントに達しているのですよ。本来ならば薬草採取依頼で昇級ポイントを稼ぐにはもう少し時間がかかるはずなんですが、特に最近は寒くなって薬草の生えも悪くなってますしね……それだと言うのに、リートくんは毎日のように百発百中でモンゴロ草を持ってきますらね。リートくんは既にD級冒険者になるランクアップの権利が得られているのですよ」

「おおっ……」

確かに結構な数のモンゴロ草をこの冒険者ギルドタチーナ支部に収めてきたことは確かだ。昇級なんて先の先の話かと思っていたけれど、いつのまにかそんなに依頼をこなせていたようだ。

「ただし……冒険者ランクアップのためには、D級冒険者としてやっていけることを示す必要があります。具体的には昇級試験がある、ということになりますね」

「えっ、ええ……でも、僕ってずっと薬草とってただけですし……試験って言われても……」

アリスさんが可愛らしく立てた指を小さく振りながら微笑む。

「大丈夫ですよ。D級への最初の昇進試験は冒険者がそれまでにしてきた依頼を考慮して試験内容を決めることになります。例えば戦闘系の依頼をこなす方の場合だと、上位冒険者に戦闘技術を見てもらうなどという形になりますが……リートくんの場合にはそのまま薬草納品に関するもの、ってことになりますね」

「薬草納品に関するもの……?」

「はい、一定期間内でモンゴロ草を規定数集めてもらうという特殊指定依頼をこなしてもらうのでも良いですし……もしくは、ギルドで把握していないモンゴロ草の群生地を報告してもらうということも可能ですが……普通の場合だと後者を嫌がる冒険者の方は多いんですが……」

一定期間内でモンゴロ草を集めるってのは別に難しくなさそうだけど……

「あ、僕、それでいいです。正直もう一人じゃ管理しきれないくらいモンゴロ草の群生地は把握しているので……でも、冒険者ギルドでモンゴロ草の群生地を把握して、職員の人が取りにいったりするんですか?」

少なくとも僕がここに来てからは十分なモンゴロ草が供給されているはず。冒険者ギルドで薬草群生地を把握している意味なんてあるのだろうか……

「そうですね。リートくんのような冒険者がいつもいればよいのですが、慢性的に薬草が不足しているような場合もありますし、どうしても緊急で回復薬を増産しないといけない場合などもあります。そんなときに、モンゴロ草の群生地の位置を提供しての指定依頼を出す場合なんかがあるんです」

「なるほどー……」

確かに強力な魔物がどこかに現れたって場合にはたくさんの回復薬を集めておく必要があるだろう。それこそ魔物の大暴走・スタンピードでも起こるような場合には大量の回復薬が必要になるだろう。

「モンゴロ草の依頼は安定した生活を望む冒険者には良いものですが、やはり冒険者は夢をもって冒険されている方が多いわけです。魔物の討伐や、希少な動植物の採取依頼などを成功させれば数十倍から数百倍の収入が見込めますからね……リートくんがこれから受諾可能になるC級の依頼にはそういった高額報酬の依頼が混ざってくることになります」

「薬草採取をずっと続ける冒険者はそうはいないってことですか……確かに僕も……」

僕も安定した生活がしたいってだけだったらスライムのレンタル業の方に本腰を入れる方が良い。

なんで冒険者を始めたかっていうと、冒険者として経験を積むことで自分の活動の幅を広げるため……可能であれば戦闘能力なんかも身につけて、やがてはメグやシルヴィーなんかと一緒に……なんてことを思っているわけだ。

「リート君も、D級冒険者になったら難しいC級依頼を挑戦されていきますか?」

「そうですね、そのつもりです。でも、モンゴロ草が必要なときには言ってください。いつでも……とまでは言えないかもしれませんが、できるだけ対応しますよ」

「はい、その時にはよろしくお願いします……では、リートくん、昇給試験をさくっと済ませてしまいましょうか」

そう言うとアリスさんはカウンターの引き出しからマップを取り出す。そこにはミルカ池周りのけもの道や特徴的な木や崖などについてかなり細かい地形が書き込まれている。

最近通い慣れているせいか、その特徴的な場所をしっかりと頭に思い浮かべることができる。

「はい……えーっと、この場所はどうでしょうか?」

僕は手持ちの簡易地図と見比べながら、発見した群生地の一つを指差す。

「あ、そこは既にギルドの方でも把握している群生地ですね……」

「そうですか……では、こちらは?」

僕はもう少しミルカ池から遠い群生地を指差してみる。

「そちらは、登録されていませんね。このくらいミルカ池から遠くなると、他の冒険者さんたちは諦めてしまうんですが……さすがは薬草エキスパートのリートくんですね。後ほどギルドの方で確認はとりますが、リートくんならば間違いはないでしょうね」

「はい、必要でしたら一緒に赴くことも可能ですよ」

「わかりました……ではこちらの群生地の情報を提供して頂いた、ということで今日をもってリートくんをD級冒険者へと昇格させていただきます。リートくんの冒険者カードをを出してもらえますか?」

「はい」

「ありがとうございます……少々お待ち下さいね」

僕は懐から冒険者カードを取り出すと、アリスさんはそれを手にギルドの奥へと下がっていく。

戻ってきた彼女の手には、今までよりも質の良さそうな表面に光沢のあるカードが載せられている。

「こちらのカードの受け渡しをもって、これからリートくんをD級冒険者として扱わせていただきます。D級冒険者リート様、これからもよろしくお願いします」

「はいっ、アリスさん。これからもよろしくお願いしますっ!」

僕は新しいカードを手に、冒険者ギルドを後にしたのだった。

 

 

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ーー No. PD

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