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「さーって、行ってみるとしますかー」
獣道をしばらく歩いてから、森の奥へ向けてガサガサと藪の中に足を踏み込んでいく。
しばらく足元を探りながら前へと進んでいくと、100本ほどの薬草の生えている群生地を見つける。
「ここは、まだ来たことがないとこだから、幸先良く新しい群生地の発見ってことだね……」
懐から簡易の周辺地図を取り出し、だいたいの群生地の場所を地図に書き込んでおく。
ここまではいつも通りのルーティンだけど……ここからが違う。
「パラくん……どう? いらない、そう……じゃあスリちゃんは? 君もいらないのね……それじゃ……」
僕が薬草の群生地を前にして声をかけるのは、僕の両肩、そして両手にまとわりつくスライムたち。
パラライズスライムのパラちゃん。
スリープスライムのスリちゃん。
コンフューズスライムのコンくん。
そしてウィークスライムのウィちゃんだ。
それぞれこの周辺の薬草を食べて育っていたアンコモン種のスライムたち。
それぞれ餌付けして友好状態にして使役しているわけなんだけど、名前のとおりそれぞれの溶解液弾には特殊効果が付与されている。
一つ一つの状態異常効果はさほど強いわけじゃないけれど、一匹の魔物にすべての状態異常を付与できると考えればなかなかのものとなるだろう。
スライムくんたちの打たれ弱ささえなんとかできるならば、いずれは彼らを引き連れてダンジョン攻略なんてのも良いかもしれない、なんて思ってたりする。
とはいえ、今はそれは置いておこう。
今の僕にとって重要なのは……彼らの食習慣の方なのだ。
この僕の目の前にある薬草に、4匹のスライムが全く興味を示さない……
「へえ、皆、いらないんだねっ……ってことは、これは無害な薬草のモンゴロ草ってことだねっ!」
そう、もしこれらの4種類のスライムが食べることに興味を示さないということは、この薬草は状態異常効果を持つものではなく、ただの薬草であるモンゴロ草だということ。
「……やったぞっ! ここは誰も採取している様子がないし……初めての自分だけのモンゴロ草の群生地を見つけたんだっ!!!」
小さめの群生地だけど、切り取られている様子のあるモンゴロ草はない。
100本ほどの群生地を定期的に刈にくれば、その度に50000ピノが儲かるってことになる。この群生地を育つ度に刈り取っているだけでも、定期的な稼ぎになってくれるってことだ。
僕は鼻歌を歌いながら、生え揃った大きなモンゴロ草をどんどんと刈り取っていく。
「ふふっ、スライムくんたちを試す初日から手つかずのモンゴロ草の群生地が見つかるなんてラッキーだな。この調子で後数カ所見つけたら、それだけでも食っていけるようになるかもしれないぞ」
モンゴロ草が採取に十分なサイズに育つには約2ヶ月ほどかかると言われている。
定期的に1ヶ月に10万ピノを稼ごうと思ったら、このサイズの群生地を4つ確保しておく必要があるわけだ。
もちろんそれ以上の場所が確保できるならば言うことはない。
1週間で一つの群生地を確保できるようになれば月20万ピノ。
そこまでいければ十分すぎる定期収入と言えるだろう……
「……って、そういえば薬草の育ち方って季節とも関係してるのかな? もし冬の間には取れないなんてことになると、そう簡単な話ではなくなっちゃうんだな」
今はまだまだ暖かくて日も長い。
この時期ならば2ヶ月で十分に育つにしても、これから冬に入っていくともっと時間がかかるってことは十分にありうる。
「そのへんもアリスさんに確認しておかないとな……さて、ここのは全部刈り取ったし、今日はもうタチーナに戻ろうかな……」
一つ一つは軽いとはいえ、100本ほどの薬草に4匹のスライムは結構な重量だ。
これらを抱えたまま深い森の中で薬草探しをするのは容易ではない。
僕は重くなったズタ袋とスライムを抱えたまま、タチーナの街へと戻ったのだった。
「ひゃぁっ、スライムがいっぱいっ……ってリートさんじゃないですか」
スライムにまとわりつかれる僕を見て小さな驚きの声をあげたのは冒険者ギルド受付嬢のアリスさん。
「ええ、僕の『職業』で使役しているスライムたちなんです。ってあれ……そういえばスライムを街で連れ歩くのって登録とか必要なんですかね?」
「強力な魔物でしたら登録していただく必要がありますが……スライムですからね? 後ほど確認は取っておきますが、おそらくそのまま連れて頂いて問題ないはずです。好奇心旺盛な子供などに怪我させないようにだけ気を使って頂ければ……」
「はい、そうですね。僕の調べたところだと、僕にくっついている間は他の人に攻撃したりはしないみたいです。離してるのはうちの庭でだけですし……あ、これが今日の採取してきた薬草になります」
僕はズタ袋から薬草の束を取り出し、アリスさんに手渡す。
「リートさん、これはかなり大きめのサイズですね……新しい群生地を見つけられましたか?」
「はい、実はそうなんです。ちょっとしたことからモンゴロ草の群生地だと予想しているんですが……」
「そうですか。でも、余り期待しすぎないほうがいいですよ。5分の1って結構当たらないものですから……」
そう言いながらアリスさんは奥へと下がっていく。
奥にいる素材鑑定士のチェックが済むと、アリスさんは小走りでこちらへと戻ってくる。その顔はとても嬉しそうなものだ。
「おめでとうございます、リートさん!! ばっちり全部モンゴロ草でしたよっ! 手つかずの群生地を見つけたなら、定期的な良い収入になりますね」
「はいっ、アリスさん。ありがとうございます」
まず間違いないとは思ってたけど、こうして確認できると安心する。
「初めたばかりだというのに、既に自分の群生地を見つける……リートさん、この依頼に向いているのかもしれませんね」
「そうですか? 難しいものなんでしょうか?」
「ミルカ池の周りに広範囲に調べれば、まだまだモンゴロ草の群生地はあるはずなんです……が、やはり池から離れるほどに探索が困難になります。それに、そうやって頑張って見つけた群生地で5分の4の方を引いてしまいますとやはりやる気を無くされてしまう方が多いのですよ……」
なるほどなるほど。
モンゴロ草の群生地が見つからない心配はしないで良いってことか。
それは僕にはグッド・ニュースだし、僕のスライムくんたちがいれば5分の4を引いても、タチーナまで戻って確認する必要はない。
これは稼げそうな気がしてきたぞ……
「そうなんですねー……僕も次もモンゴロ草が引けると良いんですが……また、明日から挑戦しますね!」
「はい、今日はおめでとうございました。明日からも冒険者ギルドをよろしくお願いします」
にっこりと微笑む美女にドキリとしつつも、僕は冷静を装ってギルドを後にしたのだ。
ーー No. PD
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