4−4 ミルカ池での薬草採取

 

 

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「はっ、ふぅっ、はぁっ……」

30分も山道を登ってくると、自然と息が上がってくる。

「……ちょっと疲れたけど、あれがミルカ池だろうな……うわぁ、すっごく綺麗だなぁ。シルヴィーとかメグにも見せてあげたいよ」

目の前に見えてきた山間に広がる大きな池──湖と呼んだ方がいいくらいの水たまりは、対岸がなんとか確認できるってくらいの大きさだ。

その色は透き通るような青。

水の中に倒れている木の姿を鮮明に見ることができるし、その周りを泳いでいる小魚の姿も簡単に見て取ることができる。

「それで、対岸のあたりの池の周りあたりが危ないっていうんだよな。ってことは池周りを探るんじゃなくて、この森の中に入る必要があるってことだよね……」

池の周りもまた自然豊かで、鬱蒼とした森って感じの様子だ。

今は他の冒険者の姿も見えないので、僕はそのまま森の中に適当に足を踏み入れてみることにする。

「……くっ、これは結構大変だねっ……ところどこ踏み固められてる感じはするけど……」

大きな木々の合間を抜け、獣道というか、他の冒険者が少し踏み固めた様子の場所を選んで進んでいく。

歩きながら足元に注意を払っていると、それはすぐに見つかった。

「あっ、これじゃないかな、見た目はそれっぽいし……うん、はっぱの後ろがツルツル。問題はこれがどの草だかわからないことだけど……」

僕はいずれかの薬草である草の根本を、取り出した採取用ナイフで切り取る。

20cmほどの丈は、アリスさんに見せてもらった見本よりも少し大きい。

大きいほうが値段は少し上らしいから、大きいのが見つかるに越したことはない。

「群生してるって言ってたけど……こういう冒険者の通り道になってるところには、ほとんど残ってないんだろうな。っていうか、これも目当ての薬草のモンゴロ草じゃない可能性のほうが大きいか……」

とりあえず、もってきたズタ袋に丁寧に薬草をしまう。

僕はそのまま足元を見ながら歩き続け、薬草探索を続ける。

 

獣道沿いで5本ほど薬草を回収したところで、一旦足を止める。

「ふう……獣道沿いでもそれなりに取れる感じだけど、薬草を稼ぎにしようと思ったらやっぱり群生地を見つけないといけないよなあ……」

僕が見るのは足元に草やら低木などが生い茂る森の中だ。この中に突っ込むとなると、さっきまでよりも大きな困難が予想される。

「まあ、アリスさんもこのあたりには危険なことはないって言ってたし、迷わないようにあまり遠くにいかないようにすれば問題ないはずだよね……」

足元に絡みつく草やら低木をぐいぐいとかき分け、深い森の中に足を踏み入れる。

予想通り歩くのはだいぶ難しくなるけれど、とはいえ進むのが不可能というわけじゃない。

そして、獣道から10メートルほど進むと……僕の目の前にそれはあった。

「おっ……これはラッキーって言っていいやつかな?」

先程まで一本ずつ拾ってきた薬草が大量に生えているところが見つかる。

木々の間のスペースを埋め尽くす薬草は、群生地という言葉に相応しい生え方だ。

僕はとりあえず30本ほど、薬草を根本で切り取り、他のものと混ざらないように紐で束にしてくくる。

「幸先良いスタートだけど……確率は5分の1かあ……まあ、今考えてもしょうがないし、次々っ」

 

 

「ふうっ、あー、疲れたー……」

未開の森を歩き回ることしばらく。

1個目を早々に見つけられたのはやっぱりラッキーだったみたいで、あの後見つけられた群生地はたったの1つだけだった。

「うーん……冒険者用の街門は夜まで開いてるらしいけど、そろそろ帰らないといけないよな……」

既に日は傾き始めており、後1時間もすれば日は落ちてしまうだろう。

僕はつけておいた目印を追って、ミルカ池の方へと戻ることにした。

 

 

「……残念ですが、今回のリートさんの薬草の中でモンゴロ草は2本だけですね。束になっていたのはミンギリ草、そしてメンゲレ草でしたので、リートさんが見つけたのはそれらの群生地、ということになります」

「そうですかー……残念ですが、しょうがないですよね。1個は当たっていてほしかったですけど……」

「そうですね。ほぼ同じ確率で生えていますので、モンゴロ草の群生地を見つける確率はどうしても5分の1ほどになってしまいます。この常設薬草採取依頼が比較的人気が薄いのも、そのあたりが原因なんでしょうね……」

「はい」

受付嬢のアリスさんから返ってきた薬草の内訳は残念なものだったけど、まあ初めての依頼なんだししょうがないとも言える。

「では、こちら約50ピノが70本と、約500ピノが2本ということになります。サイズが大きいものが多かったので、今回の依頼報酬は4800ピノになります」

「はい、わかりました。ありがとうございます、アリスさん」

「こちらこそ。これに気を落とさず、また薬草採取依頼を受けてくださいね。しっかり冒険者ランク昇級に向けた依頼数には加算されていますので」

「はいっ! それではまた」

アリスさんから現金を受け取ると、僕は冒険者ギルドを後にした。

 

「しかし、1日がっつり動き回って4800ピノかー……」

僕の場合は自分の家に住んでいるからいいけど、宿暮らしの冒険者だったら食事代を考えれば赤字になってしまうだろう。

毎日これで暮らしていくってのは結構大変なことだ。

もっとたくさん持ち帰れれば良いのかもだけど、草とはいえ大量に集めると結構な重さだ。

今日も70本ほどの草で、持って帰るのが大変なくらいだった。

せいぜい100本が持ち帰れる限度だろう。

「やっぱり、モンゴロ草の群生地をなんとか見つける必要があるよなあ……」

正しい薬草であるモンゴロ草の群生地さえ見つけてしまえば話は別。

500ピノが100本取れれば、それだけで5万ピノだ。

1日の報酬としては結構な額と言える。

薬草採取を生業にする冒険者がモンゴロ草の群生地を隠すのはそれは当然のことだろう。

「何かモンゴロ草を簡単に見つけられる方法があれば良いんだけどなあ……」

家にランニングで帰るまでの間、僕はそんなことを考えていたのだった。

 

 

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ーー No. PD

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