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「はぁっ、はぁっ、ふぅっっ……お、いるいる……」
裏山に分け入り道無き道を登っていくと、ふるふると震えている粘液体たちがそこかしこに見つかる。
僕はそのうちの枯葉の溜まったとこに乗っかっている1匹に近づいてみることにする。
無警戒な僕の接近だけど、スライムが逃げ出す気配はない。
「相変わらず野良のスライムはのほほんとしているというか、警戒心がないというか……」
一応魔物に位置付けられるスライムだけど、近づいたくらいじゃ攻撃してくることもないし、逃げることもない。
「さて、それじゃ早速……『スライム鑑定』」
スキルを使用すると、すぐに頭の中に目の前のスライムの情報が流れ込んでくる。
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【ノービススライム(C)】
名前:
状態:中立
性別:♂
年齢:0歳
好物:枯葉
モンスタースキル:《溶解液弾》
なんの変哲も無い単細胞生物。特に意思もなく好きな枯葉を求めながら生きている。基本スキル《溶解液弾》は使えるがその威力は極めて弱い。
ーーー
「お、これはまさに、普通のスライムだな……種族名は【ノービススライム】っていうのか……」
得られた情報を眺め直してみると、いくつかわかることがある。
まずこの野生のスライムには名前がない。
つまりスラくんの名前は、やっぱり僕がそう呼んでたからその名がついたってことだろう。
それから状態が中立になっている。
うちにいる仲良しのスラくんの場合は、ここが友好になっていた。
このスライムは僕のことを敵とはみなしていないけど、仲良くなりたいとも思ってないということだろう。
というか単細胞生物らしいから、そんな感情はそもそもないのかもしれない。
「君、ちょっと持たせてもらってもいいかな?」
僕の言葉に全く反応することもないスライムに近づき、僕はスライムに手をかける。
暖かく柔らかな体を持ち上げるところまではうまくいったんだけど……
「……あつっっ!!」
手に感じる火傷のような感覚に、スライムを離さざるを得なかった。
地面に落ちたスライムはフニフニと僕から離れる方向に動いていく。
「……これが普通スライムの《溶解液弾》ってことか」
手のひらを眺めると一部が赤くなっているのが見える。
「痛いけど、まあほっとけば治るって感じかな……スラくんの溶解液よりはだいぶ弱いんだろうね……『スライム鑑定』」
逃げていくスライムの背中にもう一度鑑定スキルを放つ。
ーーー
【ノービススライム(C)】
名前:
状態:敵対
性別:♂
年齢:0歳
好物:枯葉
モンスタースキル:《溶解液弾》
なんの変哲も無い単細胞生物。特に意思もなく好きな枯葉を求めながら生きている。基本スキル《溶解液弾》は使えるが威力は極めて弱い。
ーーー
「あ、やっぱり敵対状態になってたか……つまり、話しかけてからでもスライムの体を持ったりしたら、それは中立状態のスライムにとっては敵対行動ってことになっちゃうんだな。『スライム繁殖師』だからって問答無用でスライムと仲良くなれるわけじゃないんだね……」
スラくんの時はそもそもしばらく中庭にいついてたし、餌をあげたり話したりとだいぶ長いこと仲良くしていた。
そこまでとは言わなくても、それなりにスライムと仲良くなるための前行動が必要なのかもしれない。
敵対状態になってしまったスライムの調査は諦めて、僕は次のスライムを探すことにする。
「あ、いたいた……」
すぐに次のスライムは見つかる。
「『スライム鑑定』……あ、こいつも普通のスライムか。好物が”動物の糞”ってくらいしか違いはないな」
試しに近くに落ちていた野うさぎの糞のようなものをスライムに上げてみる。
ふるふると震えたスライムは体の中に糞を取り入れると消化を始める。
好物だけあって消化が早いのか、すぐに糞のほとんどは体の中から消えた。
少しだけ残ったカスのようなものをスライムはペイっと体の中から放出する。
「お、なんだこれ。全部は消化できないってことなのかな? ……さて、『スライム鑑定』……んー、さすがに1個餌を上げたくらいじゃ友好状態とはならないか」
もしかしたら餌付けで友好状態を上げられるかと思ったんだけど、そう簡単には上がってくれないらしい。
「……今日はどんなスライムがいるかの確認にきただけだし、次のスライムを探すか……」
僕は餌をあげたスライムをその場に残し、次のスライムを探したのだ。
「……うーん、普通のスライムが16匹、【ポイズンスライム】が2匹、【アシッドスライム】に【ゲルスライム】か……スーパーレアはもちろんだけど、レアもやっぱり出ないもんだな……」
20匹を終えたところでアンコモンの確率が20%。
どうやらスキルのコモン・アンコモン・レア率とほとんど同じくらいの確率なのかもしれない。
ちなみにアンコモンスライムたちのステータスはこんな感じ。
ーーー
【ポイズンスライム(UC)】
名前:
状態:敵対
性別:♀
年齢:1歳
好物:毒キノコ
モンスタースキル:《溶解毒液弾》
なんの変哲も無い単細胞生物。特に意思もないが、好きな毒を持つ毒キノコを求めながら生きている。基本スキル《溶解液弾》に毒効果が追加され、毒の状態異常を与える。
ーーー
緑色の見た目だけでそれとわかる【ポイズンスライム】。
この鑑定した【ポイズンスライム】は最初から敵対状態だったので、《溶解毒液弾》を貰わないようにさっさと逃げた。
もう1匹の【ポイズンスライム】は中立状態だったから、その辺もスライムの個性っていうか個体差があるのかもしれない。
ーーー
【アシッドスライム(UC)】
名前:
状態:中立
性別:♂
年齢:1歳
好物:酸性汚染水
モンスタースキル:《溶解酸液弾》
なんの変哲も無い単細胞生物。特に意思もないが、酸性に汚染された水が好き。基本スキル《溶解液弾》に強酸効果が追加され、溶解効果が上昇する。
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このスライムは見た目は【ノービススライム】と全く一緒。
【アシッドスライム】って名前は聞いたことがなかったけど、たまに溶解液の威力が強いスライムがいるって話は聞いたことがある。
ただの強化されたスライムだと思われてたみたいだけど、若しかしたらその個体はこの【アシッドスライム】だったのかもしれない。
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【ゲルスライム(UC)】
名前:
状態:中立
性別:♂
年齢:2歳
好物:生草
モンスタースキル:《溶解液弾》
なんの変哲も無い単細胞生物。特に意思もない。基本スキル《溶解液弾》が使える。食物繊維を食べている影響なのか、普通のスライムに比べて粘液の密度が高く硬い。表皮も破れにくいため、普通のスライムよりも長生きすることが多い。
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なるほど。
確かに今日鑑定したスライムのほとんどは0歳か1歳だった。
特に天敵がいるってわけでもないんだろうけど、スライムは蹴っ飛ばされるだけで死んじゃうような弱い魔物だ。
ほとんどのスライムは確率的に2歳を迎える前に死んでしまうんだろう。
ちなみにこの【ゲルスライム】は粘液が少し白く濁っている。
続けてもう数匹鑑定したところで、頭がクラクラとしてくる。
「あ、これが、スキルエナジーの枯渇ってやつだな……今の僕が使える『スライム鑑定』は1日25回くらいってことか」
僕は今日はもう休むことにして、スラくんの待っている自宅へと戻った。
ーー No. PD
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