2−3 まずはスライムと接触してみよう

 

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よく晴れた爽やかな朝。

家から中庭に出てそれを探してみると、それはすぐに見つかった。

「やあ、スライムくん。元気にしてるかい?」

──ふるふる

っといつもの通り震えて応えてくれる中庭に住み着いたスライムくん。

「スライムくん、あのね……僕、最近ずっと僕の職業の『スライム繁殖師』について調べてたんだけどさ、結局どういうものかよくわからなかったんだよね。よかったらスライムくん、僕の職業について調べるの、手伝ってくれないかな?」

──ふるふる

スライムくんは大きめにふるふると体を揺らす。

なんとなく肯定してくれてる気がするので……

「じゃ、まずはスライムくんの体、ちょっと触らせてね……」

その粘液の体に手を伸ばす。

「おぉっ……柔らかっっ……」

スライムくんはとろけるような柔らかさだった。

指先が程よく沈みこみ、でも柔らかい中にも程よい抵抗がある。

冷たいのかと思ってたら、意外と暖かいし。

「なんだろう……なんだか、ずっと揉んでいたい感じの気持ちよさって言うかなんて言うか……」

ありそうで他にはない感じの柔らかさは手のひらにやたらと馴染む。

ムニュムニュと揉み続けていると……

──ふるふるふるふる

とスライムくんが震えはじめる。

「あ、ごめん……くすぐったいのかな」

パッとスライムくんから手を離す。

「しかし、スライムの粘液って強い消化剤でできてるんだよな……表面の膜の外には出てこないってことなのかな? ……スライムくん、これ、消化できる?」

僕は枯葉を一枚拾い上げると、スライムくんの体の上に乗せる。

枯葉がピタッとスライムくんの上に張り付くと……

──ふるふる……するん

スライムくんの静かな震えの後に、枯葉がするりとスライムくんの中へと滑り込む。

「おぉ……ゆっくりだけど、溶けてってる……」

スライムくんの中でみるみると枯葉は小さくなっていく。

1分ほどかけてスライムくんは枯葉を消化しきった。

「これも、いける?」

続いてスライムくんに見せたのは小石。

葉っぱよりは間違いなく硬いものだけど……

ーーふるっっふるっっ

スライムくんの返事は一応肯定って感じがする。

「じゃあ、ちょっと乗せてみるね……」

小石は枯葉の時と同じように、するんとスライムくんの体の中に消える。

そのまま待つこと5分ほど。

「……一回りほど小さくなったかなあ? 全部溶かすのにはかなりの時間がかかりそうだな……つまり、石なんかも消化はできるけど、柔らかいものよりはずっと時間がかかるってことか。きっと金属とかもいけるんだろうけど、もっともっと時間がかかるってことかな」

──ふるふる

「そう……しかし、なんだかこの子僕の言ってること理解してる気がするんだよな、僕も彼の言ってることなんとなくわかる気がするし。もしかしたらこれって『スライム繁殖師』の能力ってことなのかな?それともこのスライムくんが特別なのかな……あ、スライムくん、小石いらなかったら出しちゃっていいよ?」

そう言うとスライムくんはすぐに体の中から小石をぽろんと排出する。

僕のお願いでやってくれてただけで、小石はあえて消化したいものではなかったようだ。

「スライムくん、好物ってあるの?」

──ふるふる

肯定したスライムくんはゆっくりと中庭の中を動き出す。

1メートルほど移動したところで、スライムくんの動きが止まる。

「……あ、あれ、なんだろう?」

スライムくんの体を眺めると、体の中でもぞもぞと動いているものがいる。

「あっ、これバッタか……ってことは虫が好物ってことか。スライムはみんな虫が好き?」

──ふるんふるん

「そう言うわけじゃなくて、君の好物ってことね……スライムでも個体差があるってことかな?」

──ふるふる

「そうなんだね」

他に何か聞きたいことは……

「あ、そうだ……中の消化液って外に出せたりはするの?」

──ふるふる……ふるふるふるふるっっ

スライムくんが小刻みに振動すると、スライムくんの表面からピッと小石サイズの水滴が飛び出す。

水滴の飛んだ先を見てみると、その場所にあった雑草がじわじわと溶けているのが見える。

「なるほど。これは一応攻撃手段に使えそうだけど、この溶解速度の遅さじゃな。溜めて置いて罠に使うとかはできるかもしれないけど……そうなると今度は容量が問題になってくるよな。スライムくん以上の大きさの溶解液は出せないだろうし……」

スライムくんの大きさは両手で簡単に持てるくらいのサイズだ。

「……君のこと持ってみても大丈夫かな?」

──ふるっふるっ

「いいけど、丁寧にね……って感じなのかな」

僕は恐る恐るスライムの体を両手で持ち上げる。

「ん……思ったよりも軽いな。持ち運びは問題なさそうだけど、とにかく柔らかいって感じだな。気をつけないと壊れちゃいそうな感じだ」

それもそうか。

スライムは最弱の魔物。

その気になれば子供が枝と石で倒せるようなか弱い存在なのだから。

「やっぱりこの子を戦闘に使うってのは難しいよねえ……」

ふるふると優しく震えているスライムを、僕は中庭へと解放したのだった。

 

 

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ーー No. PD

 

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