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ーーガスっ
「……棍棒はちょっと重いくらいで、無手とさほど変わらないか……とりゃっ!!」
ーーグギャアッッ!!!
ゴブリンを殴り抜き、白い煙を体に吸い込む。
ーーガンッ
「……斬れてないけど、服だけでショートソードを止めるのは、ちょっと怖いな……てぃっ!!」
ーーグギャアッッ!!!
強烈な後ろ蹴りをお見舞いし、ダンジョン壁にゴブリンを叩きつける。
白い煙を体に吸い込む。
ーーブォオオオッッッ
「炎っ……あつぅっっ! あっっつぅぅぅ!! って、炎くらっといて熱いってくらいなら全然いいのか……そぉいいっっ!!」
ーーグギャアッッ!!!
マジックゴブリンにタックルを決め、そのまま壁へと突っ込み叩きつける。
赤い煙を体に吸い込む。
「だいぶ慣れてきたようじゃの……」
「そうですね……ここのゴブリンで1対1なら無手でも問題なさそうです。まあ攻撃を受けてもダメージをほとんどくらわないからってのは大きいですけど……絶望の森のゴブリンだと、まだちょっと自信は持てないかな」
「うむ、おごらぬのは良いことじゃぞ……それじゃあ、次の階層に行くかの」
アシュリーは僕の前に立つとスタスタと歩いていく。
迷路のように複雑な洞窟だけど、アシュリーが道を決める様子に淀みはない。
「……次の層に向かう場所、知ってるんですか?」
「のじゃ。この洞窟は何度か使っておるでの……ハジメがいた頃とか、親戚の子供を預かる時とか……」
親戚とかいるのか魔王。
……そりゃいるか。
「ああ、なるほど。このくらいの敵だと魔族のお子さんが使うにもちょうどいいのですね。ハジメさんはなんで?」
「ハジメは創った魔具の試しとか、魔法の練習とかかの。外の魔物を狩りすぎるのは自然のバランスが崩れたりするのじゃが、ダンジョンならその点問題はないのじゃ……ん、1匹おるぞ。ほれっ、タカシッ、行くのじゃ」
「確かにいますね……それではっ!」
僕は反対側を向いているゴブリンに向けて静かに駆け出す。
その走る速度は少しだけど、着実に今朝よりも早くなっている。
経験値を得るってことがこの世界でいかに重要かってことがわかる。
数メートルに近づいたところで、こちらに気づいたゴブリンが気づくけどもう遅い。
勢いのままにジャンプして宙に舞った僕は、慌てるゴブリンの顔に全力の飛び蹴りを放ったのだ。
ーーグギャァァァァ!!!!
石造りの階段を降りると、1階層とほとんど見た目の変わらない石造りの洞窟が続いている。
少しだけ、1階層よりも広い感じはするけど。
「さて、ここが2階層じゃ……出てくる敵はあれ、コボルトじゃな」
「ああ、これまた定番ですねえ……」
2本足で立っている犬。
犬とは言ってもその顔は凶悪なもの。
時々ファンタジー小説に出てくるような可愛らしいコボルトではないので、良心の呵責はなくて済みそうだ。
「……定番? それはわからぬが、まああれも雑魚じゃな……見てわかる通り槍を使うということ。距離を取られる分無手での対応は難しくなるのじゃ……それから1階層のゴブリンとは違い、複数のコボルトがグループで襲ってくるのには注意が必要じゃな……ま、とはいえ、槍はなまくらじゃし、あやつらにお主の装備を貫くほどの力はない。危なくなったら助けてやるから、まずはやってみるが良いのじゃ」
「わかりました」
今回は練習なので、不意打ちはせずに正面から近づいていく。
気づいた2匹のコボルトがこちらを向いて、槍を構える。
「……なるほど。確かにこれは威圧感がある」
ショートソードや棍棒を縦に構えていたゴブリンとは異なり、コボルトの槍はこちらに向けて飛び出している。
その間合いに入ったら刺される、と思うのはなかなかにしてプレッシャーがあるものだ。
「でも……」
僕はコボルトへと距離を詰める。
1匹のコボルトがやりを持ち上げ振り下ろしてくる。
僕はサイドに軽く飛び、その槍を避ける。
「近づきにくいと言う以外は、躱し方はほとんど一緒か……」
だけど、僕が着地した先。
ーーもう1匹のコボルトがその場所に向けて槍を突き出してくる。
「あっ、こんな感じなのかっ……」
突きのスピードは前のコボルトと変わらず大したことがないけど、1匹目を避けたばかりの僕自身に全く余裕がない。
「くっっ……」
僕は片手で槍先を弾きながら身を回転させ、なんとか槍の軌道から身を外す。
「あぶなっ……」
今はたまたま2匹とも視界に入ってる陣形だったら良かったけど、2匹が離れたポジションを取ったり、前後に挟まれたりしたらかなり厄介そうだ。
それが3匹に増えたら言わずもがなだ。
「ふぅっ……1匹に集中しすぎずに全体を見るって感じか……」
「じゃな、一度の立会いでそこまでわかるなら、タカシは対多戦闘の才能があるのかもしれんの」
そんなアシュリーの感想を聞きながら、再び前へと進む。
同じように1匹のコボルトが槍を放ってくる。
その1匹に集中しきらず、もう1匹にも意識を残したままで槍を避ける。
意識を向けているせいかもう1匹のコボルトは動かない。
「それならっ!」
僕は槍に沿うように前に飛び、コボルトの醜悪な顔を殴りつける。
ーープギャンッ
コボルトが吹っ飛び壁にぶつかるのを確認しつつも、もう1匹のコボルトから意識は外さない。
倒れたコボルトが起き上がらないのを確認し、僕は無事な方のコボルトに向き直る。
どこか怯えたようなコボルト。
ちょっと可哀想ではあるけれど、僕の糧になってもらおう。
ゆっくりと間合いを詰める。
槍を大振りするコボルト。
僕はあっさりとそれを避けると……
ーープギャンッッッッ
足を高く蹴り上げ、コボルトの顔を撃ち抜いた。
「良いのじゃ良いのじゃ……」
倒れたコボルト2匹にトドメを刺し経験値を吸収すると、アシュリーが近づいてくる。
「武器持ちのコボルト2匹相手で無手でこれだけできれば、もうほとんど問題はないのじゃ。数が増えてもやることは一緒。1匹ずつ片付ければ良いだけじゃからの。ま、もちろん相手の手数は増えるから、気をつける必要はあるがの」
「そうですか……でも、ここだったらいいですけど、1対1が勝てないとやっぱりどうしようも無いですよね」
頭の中に絶望の森で戦ったキングオークを思い出す。
だいぶ戦闘慣れはしてきたけど、まだあいつに勝てるとは思えない。
「そうじゃの。そこは、場数を踏むこと、経験値を集めること、それから魔法やらスキルやらを集めることなど、地道に成長していくしか無いのじゃ。タカシの場合は【異世界トイレ】のレベルアップの強化もあるからの、その点は有利なのじゃ……とは言っても、何があっても勝てない相手には絶対に勝てんことは忘れてはいけないのじゃが、己が強くなければそのことすらもわからんからの……」
「はい。それがわかるためにも強くならないといけないんですね、アシュリー」
「のじゃ」
そのまま僕は初心者ダンジョン2階層で、コボルトの集団を屠り続けたのだった。
ーー No. PD
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