2−1 『職業』について学んでみよう

 

>>次話

>>目次

>>前話

**********

 

「こんにちはー……」

黒塗りの扉を開き、その中へと声をかける。

「はい、こんにちは……あ、君は……」

ちょうど入り口にいた神官様がこちらを振り返る。

「リートです。神官様、その節はお世話になりました」

「いえ、こちらこそ、あの時は君の力になれなくて、悪かったですね……」

「いえいえ、そんなこと……王都に入学可否の問い合わせしていただけただけでもとても助かりました……あの時はっきりと答えが聞けたので、また前に向かって歩こうという気持ちになれたんです」

僕の言葉に神官様はホッとしたような表情を見せる。

「……それは良かった。信者さんたちの助けになれるのは、我々の喜びですので……それで、今日はどうしたんですか?」

「はい。自分の職業がまだどういうものかわからないので、勉強したいと思ったんです。オクサルビ教の教会には、職業関連の資料がたくさんあると聞いたんですが……」

「はい、ありますよ……貸し出しはできませんが、中で読んでいただくのは自由になっています。今もちょうど何人かの信者さんが中で勉強されております。さあ、こちらへどうぞ……」

神官様はあの日に職業をもらった礼拝堂ではなく、入り口近くにある別の扉を開く。

僕は神官様の背中に続き、その中へと入った。

 

「うわあ、大きいんですね、図書室……」

「ええ、王都の大教会ほどとはいきませんが、各都市の教会にも重要な書籍は揃えられるように努力しているんです」

その扉の先は結構な大きさの部屋で、幾つもある本棚にはたくさんの書籍が収められている。

神官様はそのまま本棚の間を抜けて、一つの本棚の前で立ち止まる。

「……職業関連の書籍はこの区画にあります。『ユニーク職業』については、えっと……この本にまとめられています。ですが、リートの場合は他の似たような職業の詳細を追った方が情報を得られるかもしれませんね……」

神官様はユニーク職業についての本だけを僕に手渡すと、そのまま前へと進む。

奥まったところに少し開けた場所があり、そこに机と椅子が並んでいる。

「こちらのテーブルと椅子が閲覧用になっています……10席しかないので、空いている席がない場合は出直していただくことになります。そんなことは滅多にありませんがね……」

大きな長方形のテーブルに、今は3人が座っており、熱心に本を読み込んでいる。

「それではリート、私はこれで……」

「はい、神官様、ありがとうございました……」

去って行く神官様を見送ってから、僕は職業関連の本棚に向かう。

 

いくつかの書籍の中身を流し読みし……

「『オクサルビ神の恩寵・職業の知識』、か……最初はこれが良さそうかな」

一冊の本を手に持って机へと戻る。

「なになに……一説には職業は数千種にも及ぶと言われており、今でも新しい職が発見されることがある……」

うん、僕の『ユニーク職業』の『スライム繁殖師』も、まさにこの新しい職に当たるわけだよな。

「……職業を得た場合は、その職業に必要な能力値が強化される。例えば重戦士の場合は耐久力。軽戦士の場合は俊敏性。裁縫士の場合は器用さ……などと言った具合である」

職次第でステータス強化があるってことだよな。

今のところこれと言った強化は感じてないんだけど、僕にも何かしらはあるはずなんだよな……と信じたい。

「……また、得た職業次第で、職業スキルを得られるようになる。剣士の場合は剣術系のスキルが得られるし、鍛治士ならば能力付与などのスキルが得られるということになる。職業スキルの一覧と詳細については『職業・スキルとその効果』をご一読頂きたい……」

これもまだ僕は何の職業スキルも得てないわけだけど……『職業・スキルとその効果』を読んだって僕のスキルが書いてあることはないんだろうな。

「……職業スキルを得るには、職業レベルを上げるか、その職業スキルを得る条件となっている職業経験を積む必要がある。レベルアップでのみ得られるスキル、職業経験にのみ得られるスキル、そしてどちらでも得られるスキルも存在している。全ての職業において魔物との戦闘経験を積むことによりレベルアップすることが知られており、また生産職業の場合には生産活動を行うことでもレベルアップする」

なるほどね。

戦闘にしろ生産にしろ、何かしら職業に関連した行動を起こさなきゃレベルアップしないということか……

スライム繁殖師は……スライムを繁殖すればいい、ってことかな……?

スライムで他の魔物を倒す……ってのは、かなりしんどいよな。

最弱の魔物って言われてるくらいだし……

まずは職業経験をしっかり積んで、職業スキルの取得を狙うってのが良さそう?

「……一般的に生産職業は生産行為を大量に行うことで、初期のレベルアップが迅速に行うことができるが、やがてそのレベルアップは頭打ちになることが多い。逆に戦闘職業は、初期のレベルアップこそ危険で難しいものの、より強力な魔物と戦うことで高レベルへ到達することが可能となると言われている……」

僕の場合で言ったら、スライム繁殖がうまくできれば最初のレベルはどんどんと上がるってことかな?

でも、高レベルを目指そうと思ったら、スライムを使って他の魔物を倒す必要があるってことだろうね。

「……ここからはいくつかある職業のタイプについて説明していく。得られる職業のうちの80%は頻出される通常職業、一般的にはコモンタイプと呼ばれる職業を得る。コモンタイプだからと言って得られる能力やスキルが劣るのかと言うと決してそんなことはない。実は、社会を構成する一員となるために重要なスキルや能力を得ることが可能なのである……」

そうだね。

例えば、マッツさんの『料理士』はコモン職業だけど、実際の料理だけではなく、素材の採取を補助する狩猟系のスキルも得られるし、彼の作った料理を食べた人にはステータスアップや健康増進の効果がある。

マッツさんの料理なしじゃこの宿場町は成り立たない、なんて言う人がいるくらいだ。

「……残りの20%のほとんど、19%の人々はアンコモンの職業を得る。コモンの職業よりも、単純に強化された能力を得たり、やや特化型の能力になる場合もある……」

なるほど。僕の父さんの『盾戦士』の職業は、盾スキルばかりだったけど、かなり強力だったって言うし、父さんは特化型のアンコモンだったってことか。

「……極めて高い能力値を獲得し、強力なスキルを操る1%の職業がレア職業と呼ばれる。戦闘職であれば、一人で戦局を変えることができるほどの能力をもつことになる……」

母さんの『召喚士』は確かレア職業だったよな。何十匹もの狼型の強力な魔物を好きな時に召喚できるって、確かにかなり強力な能力だよな。

「……そして、ごく稀な確率で、スーパーレアと呼ばれる職業が与えられる場合もある。一騎当千の能力を持つこれらの職業は、戦闘職であれば戦術兵器と言ってよく、生産職であれば社会変革をもたらすような存在となる……」

これがメグの得た『賢者』の職業ってわけだな。無事に育つと、凄まじい大規模魔術を連発するようなとんでもない魔術師になるって言うし、さもありなんか……

「……そして、これらに属しない職業もある。『ユニーク職業』と呼ばれる職である」

お、ここからが僕にとって重要なところだな。

「……だが、『ユニーク職』について述べ始めると長くなるため、別冊にまとめることにする……って書いていないんかいっ! ……あ、ごめんなさいっ!」

思わずそんな声を上げてしまい、周囲の方々が迷惑そうにこちらを見てくる。

「ってことは次は最初に神官様がくれた『ユニーク職業』についての本を読めばいいってことかな……でも、今はちょっとお腹減ったな。お昼ご飯を食べてからまた戻ってくるか……」

入り口にいた神官様に声をかけると、僕は一旦教会から出たのだった。

 

 

>>次話

>>目次

>>前話

 

ーー No. PD

コメント

タイトルとURLをコピーしました