3−7 魔王様と前回勇者の遺産

 

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言ってしまってはなんだけど、ハジメさんの家の中の見た目は普通の綺麗な一軒家という感じだった。

勇者が使ってた家として観光地にしようと思っても、失敗すること間違いなしだろう。

「懐かしいのじゃ……あの頃と何も変わっていないのじゃ……」

そんな家の中を、アシュリーが懐かしそうに目を細めて見回している。

「そうか……ハジメさんがいた頃は入れたんだし、アシュリーはここにくるのって初めてってわけじゃないんですね?」

「その通りじゃ……ちょっと見て回ってくるから、タカシはそこのリビングルームで待っててもらっても良いかの?」

「わかりました。ごゆっくりどうぞ」

僕はリビングルームにあったソファーに腰掛け、登山の疲れをとるのだった。

 

 

1時間ほどのんびりくつろいでいると、アシュリーがリビングに戻ってくる。

その目の筋はかすかに光っているようにも見える……

「……この家は封印されてただけあって、中の時が止まったかのようじゃったわ……あの頃と何も変わっておらんかった」

「そうですか……それで、目的のものは見つかったんですか?」

「うむ……タカシ、こっちの保管室についてくるのじゃ……」

アシュリーの背に続いて廊下を歩き、突き当りの小さな扉をくぐる。

「これがハジメが集めたガラクタの成れの果て……カッコよく言うならば”勇者の遺産”じゃな」

「ガラクタの成れの果てって……見た感じなんだかすごそうなものがいっぱいありますけど……」

「まあ、そうじゃな。コレクションとか言って使いもしないのに集めているものがほとんどだったのじゃが、装備やら魔具やらの性能自体はかなり良いものじゃよ。ハジメが手ずから作ったものもあるのじゃ」

そう言いながらアシュリーが手に取ったりしている剣やら盾やらは、何だかオーラが出ているような凄みがある。

「まあ、ほとんどは我に必要なものではないが、あると便利なものもあってじゃな。奴が亡くなる前の約束で、全部もらいうけたのじゃ……それで、残りのいらないものは好きにしていいってことになっておってな。タカシが欲しいものがあれば幾つか持ってって良いのじゃ」

アシュリはそう言って無造作に放り投げられたアイテムを拾い始める。

「これなんかどうじゃ? ハジメがたまに使っておったネタ装備の魔剣で、火が纏えるのじゃ」

「……火が纏えるネタ装備って、それ持ってて熱くないんですか?」

「熱い熱いって、ハジメはよく文句を言っておったの……」

「チートのハジメさんが持って熱いって、それ絶対僕が持つの無理じゃないですか……」

呆れた顔を見せると、アシュリーはすっと目を逸らす。

もしかしたらわかっててネタで言っていたのかもしれない。

「それじゃ、こっちの”すごくよく切れる包丁”なんてどうじゃ? 上級スケルトンの骨までサクッと切れるだけじゃなく、まな板まで抵抗なく真っ二つ……じゃが、武器として使うならなかなか秀逸じゃぞ……」

「それも、ちょっと怖い包丁? 武器? ……ですね。スッパリと色々切っちゃいそうで……僕武器は【異世界モップ】があるので、大丈夫ですよ。今でもこのモップ結構いい感じなんですけど、もうちょっと成長させればかなり有効な武器になると思うんですよね」

「それも、そうじゃな……それじゃ、防具が良いかの。この服なんてどうじゃ? 昔ハジメが着てた服なんじゃが、耐斬、耐打、耐魔に自動修復の魔法までかかっておるのじゃ。耐性の方はさほど大きいとは言えないのじゃが、お主のその”スーツ”? よりかは良いじゃろ」

そう言ってアシュリーが手に取ったのは、見た目は和服って感じの装備だった。

「それ……ちょっと陣羽織っぽくてかっこいいですね……」

地球で好きだった新撰組の衣装を思わせる。

新撰組をネタにした小説を書くのは、僕の数少ない趣味の一つだったのだ。

「何じゃ……お主はこういうのが好きなのか? ハジメもこういうのが好きでの、仲良くなったエルフに特注で作らせたとか言っておったの。”カタナ”?とか言うのも作りたかったようじゃが、奴の知り合いのドワーフでも実現できなかったそうじゃな……ほれ、ちと着てみるがいいのじゃ」

ハジメさん……って若しかしたら同好の士だったりするんだろうか。

この世界に彼がいたのは数百年前のようだけど、地球での時代はそんなに離れてなさそうなんだよな。

地球とこっちじゃ時間の進みがずれてるのかもしれない。

そう考えると、異世界って……もしかしたらすごく遠いだけで、前いた宇宙の一箇所って可能性もあるのかな?

いや、でもこの世界の魔法の存在は、前の科学の世界の常識じゃ説明できないか。

「それじゃ、ちょっと着替えてきますね」

僕はアシュリーから着物を受け取ると、保管室の外に出て着替える。

和服を着慣れてるわけじゃないけど、羽織って数箇所縛るだけの簡単デザインだった。

着替え終えた僕は保管室の中に戻る。

「……アシュリー、これ、どうですか?」

「おお、似合っておるではないか。若い頃のハジメを思い出すようじゃ」

「そうですか……それじゃせっかくだし、これを頂いちゃおうかな」

性能もいいみたいだけど、このかっこいい陣羽織が似合ってると言われるのは嬉しい。

普通の和服とは違って、軽いし全然動きの邪魔にならないのもいい。

目立つからずっと着てるってわけにもいかないだろうけど、戦闘がありそうな時に着ておくのがいいだろう。

「そうするが良いのじゃ……それから、これじゃな」

ポンっとアシュリーが手渡してきたのは、二つの指輪だった。

銀色で飾りのないシンプルな二つのリングは、何となく結婚指輪っぽい。

「これは身代わりの指輪じゃ。死ぬほどの怪我を受けた時に、指輪が代わりに壊れて、回復と同時に装備者のことを指定場所に転移させる効果があるのじゃ。指定場所はもう我の別荘になってて変えられんのじゃが、別に良いじゃろ」

「そうですね、持ってたら安心できる指輪ですね……でも、二つ?」

「のじゃ。もう一つはフィルのやつに贈れば良いじゃろ……結構レアな良いアクセサリじゃからフィルも喜ぶぞ」

「わかりました……って、この世界では男性が女性に指輪を送るのって、何か特別な意味があったりしないんですか?」

フィルとそういう仲になったとはいえ、いきなり指輪を送るなんてのはちょっと恥ずかしい。

何指につけると特別な意味、とかあったりするんだろうか……?

「特別な意味、って、一体何じゃ? ……元々我とハジメも一組使っておったんじゃが。我は最強じゃからこんな装備はあまり意味がないのじゃが、ハジメが付けるようにってうるさくての」

「それ……アシュリー、何指にはめてました?」

「何指って、左の薬指じゃが……」

「それ、地球で将来を誓い合った二人がつけるものですよ……」

「えっ……」

何を思い出しているのか表情を変えていくアシュリー。

その顔が一気に紅潮する。

「はっ、ハジメはっ、あの時そんなことは言っておらなんだのじゃっっ!!」

「そもそもにして地球だと指輪を送るって結構特別なんですけど、左手の薬指じゃもうまちがいないですね……」

「うぅっっ……そんな意味が。嬉しいけど、恥ずかしいのじゃ……」

「ま、アシュリーとハジメさんは何にしろそういう仲だったんだから、別に問題ないでしょう」

「まあ、そうなのじゃが……それとこれはちょっと話が違うのじゃ」

恥ずかしそうにモジモジと話すアシュリーは可愛い。

それを見ていてふと思いつく。

「……案外、地球出身者と一緒じゃないとこの家、そして保管室に来れないようになってたあたり、ハジメさんはこの指輪をアシュリーが同郷の転移者に見せるのがわかってて、ドッキリを仕掛けたんじゃないですかね?」

「うぅっ……ハジメなら……ありうるのじゃ……いたずら好きじゃったからのう……」

アシュリーは恥ずかしそうにぽりぽりと頬をかくのだった。

 

 

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ーー No. PD

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