**********
『トゥルーン……異世界トイレのレベルが10に上がりました』
火山の麓に呼び出した異世界トイレの前に僕は座っていると、そんな音声が脳内に流れる。
「おっ、やっぱりレベルが上がったかっ」
アシュリーの家では毎日のように異世界トイレを使ってたわけじゃないので、最近レベルは伸び悩んでいる。
つい最近1個だけレベルが上がって、9になったばかりだった。
今の異世界トイレはステータス表示にしたらこんな感じだろう。
異世界トイレ Lv.10
アップグレード個室: ベッドルーム、シャワールーム
装備:
【異世界モップ Lv.3】《斬撃付与》《魔断ち》《雷撃付与》
【異世界バケツヘルムLv.2】《属性攻撃無効》
【異世界ポーション水 Lv.2】《負傷回復・大》《スタミナ回復・中》《魔力回復・小》
スキル:異世界トイレ収納
レベル9のレベルアップのときは個室のアップグレードを選んだ。
アシュリーの別荘に住み始めていたので、攻撃力や防御力を上げる緊急性はあまりなかったから。
個室のアップグレードで、異世界ライフを充実させることを目論んだのだ。
そして実際にその目論見は当たった。
個室アップグレードでできたのはシャワールーム。
公衆トイレにシャワーって聞くと不思議な感じもするけれど、前世のユニットバスとかジムなんかのシャワールームを考えればまあそんなにおかしなものでもないだろう。
アシュリーの別荘にはシャワーはあるけど、この世界の一般的な宿屋や家庭は体をお湯で拭くくらいらしい。
これからずっとアシュリーの別荘に引きこもるってわけにはいかないので、これからの異世界生活を考えるといつでも使えるシャワールームがあるのはとても助かる。
お湯で体を拭くだけの生活なんて、日本から来た僕にはちょっと耐えられない。
「……しかし、ついにレベル10かっ……ってことは、やっぱり新しい人がトイレを使うとボーナスレベルアップがあるってことだな……しかし、超絶美少女で魔王様でも普通にトイレってするんだな……いや、当たり前なんだろうけど、なんかこう……」
アシュリーが今この瞬間に致していたと思うと、なんだか不思議な感覚を覚える。
『レベルアップ特典を選んでください
1 Lv.10限定特典
』
レベルが5になった時に見た記憶のある文面だ。
あの時は異世界トイレ収納ってコアスキルを得られたわけだけど……
「レベル10も限定特典なのか……これは期待できるかな……」
いつも通りに脳内で限定特典を意識するようにして選択する。
『Lv.10限定特典が選択されました。異世界トイレが拡張されました』
「……拡張? ってどういうことだ……?」
不思議な特典の内容に頭を悩ませていると……
「……これはっ、なんじゃあっっ!?」
そんな声が異世界トイレの中から聴こえてくる。
僕は異世界トイレの中に入りアシュリーに声をかける。
「どうしたんですか、アシュリー? ……あ、なるほど。拡張って、こういうことですかあ」
手洗い場所とトイレの個室の間。
掃除用具入れのロッカーの横の壁に、今までなかったものができている。
「これは……上に登る階段ですね……」
「そうじゃな……って”拡張”ってなんじゃ?」
「レベル10に上がった限定特典が、異世界トイレ拡張って名前だったんです。中が広くなるのかと思ったら、階層が増えることになるとは……」
「なるほど、それでこんなところに階段ができたのじゃな……」
「はい……それじゃ、ちょっと、行ってみます……」
僕は恐る恐る狭い階段を登っていく。
なんだかドキドキはするけど、僕の異世界トイレ様だ……登った先に危険があることはないだろう。
十数段の階段を登りきると、奥へと続く入り口がある。
僕はその入り口から顔を覗かせる。
「これは……」
「だだっ広いトイレ……じゃな……?」
1階と同じ広さのある結構なサイズの空間。
その端っこに申し訳とばかりに洋式トイレが一つ付いている。ここがトイレであることを示すかのように。
このままだだっ広い部屋として使っても良さそうだけど……
「……レベルアップ特典に個室追加ってのがあるのはこれが理由か」
「個室、追加?」
「そうです。僕の異世界トイレがレベルアップする時ですが、特典に装備・個室のアップグレードの他に、個室の追加ってのもあるんです。きっと、この2階に個室を増やして、それからアップグレードすることで、いろんな個室が作れるってことじゃないでしょうか……」
「なるほどのぉ……お主のシャワールームも良い感じじゃし、きっと他にも便利な個室ができるんじゃろうな……」
「だと、思います」
ベッドルーム、シャワールームに続いて何が出るのかはわからないけど、暮らしを便利にできるものはたくさんある。
この異世界トイレと一緒なら、異世界暮らしもそう悪くはないものになりそうだ。
僕たちは一通り2階を探索したあと、外へと戻る。
トイレから出た僕たちの目の前にあるのはそびえ立つ火山だ。
「さて、いよいよじゃな……今回の目的地はもうすぐそこじゃぞ……」
僕とアシュリーは火龍の住む火山へと、足を踏み入れた。
ーー No. PD
コメント