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「ここが……」
ナーニャさんに書いてもらった地図を頼りにその場所にたどり着く。
木造の2階建ての建物はこの辺りでは目立っている。
それに盾の上に二本の剣がクロスされた看板は、いかにもって感じのマークだからわかりやすいし。
「さて、いきますか……」
ギーっと音を立てる木の扉を押して中に入る。
薄暗い建物の中には、人気は少ない。
奥の酒場の方には少し人がいるようだけど、静かにお酒を飲んでいるようだ。
もうちょっと荒くれ者って雰囲気の冒険者たちが多いのかと思ってたけど、このタチーナは全体的に落ち着いた人が多いから冒険者もそういう人が多いのかもしれない。
僕はそのまま前に歩き、木造りのカウンターの一つへと向かう。
そのカウンターの奥には、こちらを見ている落ち着いた雰囲気の女性の姿がある。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドタチーナ支部へようこそ」
「は、はいっ。こんにちは! 僕はリートです。冒険者登録をしたいんですが……」
「冒険者登録ですねっ……失礼ですが、お若いように見えますがお年は?」
これは定型の質問だ。
12歳未満だったり、税金の支払いに問題があったりする場合は、保証人が必要だったりするのだ。
「13歳です。税金も払ってます」
「では、問題ありませんね、了解しました。では、こちらの登録用紙に必要事項を記入してください」
「はい」
名前、年齢に加えて、『職業』それから『職業スキル』を書いていく。特定の『職業』は優遇されたりもするわけだけど、僕のユニーク職業『スライム繁殖師』ではそうもいかないだろう。
それに加えて、戦闘技能や特殊技能があるかなどの項目を埋めていく。
「……はい、できました」
「ありがとうございます。生体認証システムを作るのに、髪の毛を一本頂けますか?」
「はい」
ぷつっと抜いた髪の毛を受付嬢さんに渡す。
「ありがとうございます、冒険者登録を進めさせて頂きます」
彼女は登録用紙と僕の髪の毛を奥にいる職員に手渡す。
「……さて、少し待ち時間となりますが、よろしければその間に冒険者制度の説明をいたしましょうか?」
「はい。お願いします」
一応ナーニャさんとかに話は聞いてるんだけど、他にすることがあるわけでもない。説明は何度聞いてもいいものだろう。
受付嬢さんは奥の職員に登録書類の準備を頼むと、僕の方に向き直る。
「はい、それでは説明させて頂きます。冒険者ギルドは世界の人々の日々の生活をよりよくするという理念の元に設立されています。すなわち冒険者にして頂くお仕事は、そういった一般の人々の生活のお手伝いとご理解ください」
「はい」
「冒険者ギルドでは特殊な『職業』など一芸に優れる冒険者を集めていますので、必然そういったお手伝いの方法も特殊なものになることも多いです。わかりやすいところでは、戦闘の技能を持つ方の場合ですと、護衛や討伐依頼などということになります」
僕がイーズレリに向かうときに護衛してくれたホフィンさんのような人の場合だろう。
「その他採取技術に優れる方、土木技術に優れる方など、色んな方がいますので、冒険者ギルドには多岐にわたる依頼が舞い込んできます。冒険者に登録されるとリートさんにもこういった依頼のどれかを受けて頂くということになります……それでは実際に幾つかの依頼を見ていただきましょう」
受付嬢さんはカウンターを離れると、カウンターの横にある掲示板へと案内してくれる。
「こちらの掲示板が依頼ボードになっています。こちらがB級以上の依頼、こちらがC級、こちらがD級になります」
「ほとんどはD級なんですね……」
たくさんの紙が貼られているのは、彼女がD級と説明したところだ。
「ええ……それからリートさんの場合E級冒険者からのスタートになりますので、最初に受けられる依頼はひとつ上のD級のものだけになります。危険度や特殊能力の必要性などでランク分けされていますが、D級の依頼などは比較的誰でもこなしやすいものになっていますね。例えば、こちらの薬草の採取の依頼などは、初めての方にもオススメの依頼になっています」
「そうなんですね……」
D級の依頼表は、彼女の言った薬草採取の依頼を始め、ペット探し、庭の片付けの手伝いなど、たしかに誰でもできそうな内容がちらほらと混ざっている。
それから大工仕事なんかの臨時のお手伝いなんかもここで募集されているようだ。
「受けたい依頼が見つかりましたら、受付にいる受付嬢のところに依頼表をお持ちください。手続きをして所定の場所に向かってもらうことになります」
「わかりました……この薬草採取の依頼表はたくさん依頼表があるみたいですけど……」
他の依頼表が1枚しかないのに比べて、薬草採取のところにはたくさんの依頼表が
「良い質問です……こちらはギルドからの常設依頼になっているので、誰でもいつでも受けることのできる依頼なのです。逆に言えば、先に薬草を確保してから依頼を受けてもらっても構いません。そういう常設依頼は幾つかありますし、各ギルド支部ごとに異なっていたりするので、気になるものがあったら受付嬢にお聞きください」
「なるほどー……」
「はい……他に質問はありませんか? ……ないようでしたら、冒険者登録の準備ができたようですので、カウンターに戻りましょう」
スタスタと歩く彼女を追い、受付カウンターへと戻る。
カウンターの向こう側から、彼女はにっこりと微笑みながらカードを差し出してくる。
「冒険者登録が完了しました。E級冒険者リート様、これからよろしくお願いします」
「はいっ! よろしくお願いしますっ!」
ーー No. PD
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