3−1 黄金の鷹亭にて

 

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「……そんなわけでね、王都の生活に慣れたメグは元気にはやってるみたいだよ。でもさ、手紙のほとんどはリートはどうしてるって聞いてばっかりだったよ」

「ははっ……そうでしたか」

マーシャさんの特製スパゲッティーを御馳走になりながら、王都に行ったメグの話を聞く。

王都の職業訓練学校で忙しい日々を送ってるはずのメグが、僕のことを忘れないでくれているのは正直かなり嬉しい。

メグは今頃はきっと『賢者』の職業スキルを得て、ド派手な大規模魔法でも使いこなしてるんだろうけどさ……

「リートもメグに手紙を出してやりな。あの子も喜ぶはずだよ」

「そうですね……ちょうど少しずつ僕の職業のこともわかってきたところですし、近況報告がてら手紙を書いておきます」

「そうしておくれっ……それで、今日はどうする? うちに泊まってくかい?」

メグが王都に行ってしまった後でも、マーシャさんとマッツさんは変わらず僕に優しい。

時折こうして黄金の鷹亭に泊めてもらったりしている。

「そうですね……部屋が空いているなら。何か手伝うことはありますか?」

「そうだねえ、いつも通りに明日の部屋の掃除を手伝ってくれたら助かるよ」

「わかりまし「こらぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」……って、マッツさん?」

珍しいマッツさんの怒声が、厨房の方から聞こえてくる。

「……マッツがこんなに怒ってるのは珍しいね……どうしたんだろうね……?」

マーシャさんと一緒に厨房を覗きに行く。

「ご、ごめんなさいニャっっ!! うっかりしたのニャっっ!!」

そこにいたのは、頭を下げて平謝りする、猫人族のナーニャさんだった。

可愛らしい猫耳をぴこぴこと動かすナーニャさんは、黄金の鷹亭の従業員。

掃除とか食堂の給仕とかを手伝ってる彼女は、時折うっかりミスをやらかすことに定評があったりする。

見た目は結構しっかりもののお姉さんって感じなんだけど。

「……それで、今回はどうしたんですか?」

「…………はあ、リートくん。いや、いつものナーニャのうっかりなんだけどね、ちょっと今回はものがものでね……」

そういうマッツさんの前には、10本の大きなキノコの入ったカゴが置かれている。

「それは、キノコ……ですか? でも、この見た目って……毒キノコ、では?」

そのキノコはうちの裏山にも生えている普通の毒キノコにしか見えない。

黄金の鷹亭で使えるようなものにはみえないんだけど……

「そう見えるだろう? だけど、実はこれ、この辺の山に生えている毒キノコとは別物でね、とある魔物だらけの山の山頂付近にだけ生えるイラニス茸って言う最高級のキノコなんだよ。冒険者ギルドに高い依頼金を払って取り寄せたんだけどね……」

「そうなんですか……全く同じキノコにしか見えないですね……?」

「だろう? だから……一回混ざっちゃうと、もうどれが毒キノコなのか、わからなくなっちゃうんだよ」

「ごめんなさいニャ!!」

ははぁ……何が起こったか、だいたいわかったぞ。

「ナーニャさんが、二つのキノコを混ぜちゃったってことですね」

「その通り……毒キノコの方はネズミ用の毒団子を作ろうと思って前にとっておいたやつなんだけどさ、ナーニャが届いたキノコを見つけてさ、そこに混ぜちゃったんだよ。これの4本が高級キノコで、6本が毒キノコってわけさ……」

「なるほど……しかし、なんでまたそんな高級キノコを取り寄せたんですか?」

「実はそれが問題なんだよ……間も無く、王国第二の都市イーズレリを治めていらっしゃるラインベルト公爵様が王都のリトレを訪れることになっていてね。なんとこの『黄金の鷹亭』が、道中の宿泊宿に選定されたのだよ」

「それは……おめでとうございます、マッツさん」

「ああ、ありがとう。それでだね、この高級キノコはラインベルト公爵様の大好物だってことをお聞きしてね。私がこれをメインに据えた料理を作ろうと思っていたのさ」

「それは……今から他の料理に変えることはできないんですか?」

「一応メインは複数用意してあるから、それ自体は可能なんだけどね……すでにこのキノコが手に入ったってことを公爵様にお伝えしてしまったのだよ。かなり手に入れるのが難しい珍しいものだから、公爵様は大層お喜びになったそうで……」

「やっぱりありませんでした……とは言えないわけですね」

「そうだね……ラインベルト公爵様はお優しいことで有名な貴族様だし、真摯に理由を話して謝れば許していただけるとは思うのだけど……やっぱりナーニャをそのまま雇いつづけるという訳には行かなくなるよね……」

確かに公爵様をがっかりさせる原因になったナーニャさんを雇い続けるというのはちょっと外聞が悪い。

手打ちにされるなんてことはなさそうだけど、なんらかの処分は必要になりそう。

クビっていうのは重すぎないけど、わかりやすい処分だ。

「そ、そんニャーっ……」

ナーニャさんが、へなへなと猫耳をしおらせる。

そんなナーニャさんの可愛らしい猫耳を見ながら考えを巡らせる。

毒キノコとキノコ……見た目は全く一緒。

「……それこそネズミに一部を毒味させる、とかじゃダメなんですか?」

「それができればよかったんだけどね……このキノコは切ると中の旨味が逃げ出してしまうんだよ。そのままの形でまる1日煮込むと、信じられないくらい深い味がキノコの身の中に凝縮されるんだけどね」

「匂い、とかは……?」

「同じだね……というか、この二つのキノコ、種は同じものだって言われてるんだ。どういう理由か知らないけど、育つ場所の条件で毒を持ったり持たなかったりするんだって。だから、この二つのキノコの違いは、本当に毒があるかないかって、たったそれだけなんだ……」

「なるほど……じゃあ、なんとかして毒を判別しないと……って、あっ!!!」

「にゃっ!?」

大声を出した僕の前で、ナーニャさんがびくんと震える。

……これってもしかして、あれが使えるんじゃないだろうか?

そうと決めたら試さずにはいられない。

「マッツさん、僕ちょっと思いついたことがあるんです! もしかしたら、このキノコなんとかできるかもしれませんっ! すぐに戻るんで、これ、そのままにしておいてもらっていいですか?」

「ああ、もちろんだよ。正直打つ手がないかと思ってたから、リートくんがどうにかしてくれるなら感謝してもしきれないよ」

「リート、頼んだニャっ! うちのクビはあんたにかかってるだニャっっ!!」

ちょっとだけ元気を取り戻したナーニャさんに見送られ、僕は街の外れの家まで全力疾走したのだ。

 

 

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ーー No. PD

 

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