1−3 運命のその日、僕が得た職業は

 

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「それじゃ……父さん、母さん、行ってきます!!」

僕は部屋の片隅の2柱のモノリスに向かって挨拶すると、家を駆けでる。

中庭をちらっと見ると、いつだかから住み着いてしまったスライムがふるふると震えながらくつろいでいる。

「スライムくんっ、君も僕がいい職業もらえるように祈っててねっっ! 行ってきますっ!」

僕はふるふると震え続けるスライムを背後に、タチーナの中心に向かって走り始めた。

 

 

町の大通りまでを10分で駆け抜ける。

『黄金の鷹亭』裏口から中を覗き込むと、見慣れた可愛らしい顔が迎えてくれる。

「リートっ、おはよう」

「おはよっ! メグっ、準備はできてるっっ?」

「うん、準備万端、バッチリだよっっ! リート、行こっっ!」

メグは小さなカバンを背負うと、僕の隣に並び歩き始める。

僕たちはそのまま二人で一緒に、町の中心部を目指したのだった。

 

「……ここだね」

僕たちの目の前にあるのは、真っ黒な外壁が特徴的な教会だ。

そして、この町の中心でもある教会前広場には、すでに大勢の同年代の子達が集まっているのが見える。

「うん……ここが、職業を授けてくれるオクサルビ神の教会よね……」

神様のあたえてくれる固有の『職業』そして、その職業に関連する『恩寵スキル』。

それらはこの世界の人間が生きていく上で最も重要になる神からの二つのギフトだ。

その授受の全てを取り仕切っている宗教こそが、こんおオクサルビ教会なのだ。

 

「……時間ですね。みなさん、それではこちらにどうぞ……」

そんな神官様の言葉に従い、教会の入り口をくぐって中へと入る。

薄暗く涼しい教会の中は、荘厳な空気に満たされている。

神官様に促されるままに、教会の長椅子に奥から腰掛けていく。

「全員座りましたね……それでは早速始めましょう……一人目、ミランダこちらへ」

神官様は手に持った紙に目を落としながら、一人の少女の名前を呼び上げる。

「はいっ」

呼ばれた少女は、教会の一番前で神の像の前に立つ神官様の元へと歩いていく。

メグほどじゃないけど目鼻立ちの整った可愛らしい女の子だ。

神官様は手を聖杯の中に沈め聖水に手を湿らす。

神官様はその両手をミランダと呼ばれた少女の頭に乗せる。

「オクサルビ神の祝福を……」

そんな厳かな声と同時に、神官様の両手がゆっくりと黄金色に光り、その光がミランダの身体へと浸透していく。

「あぁっ……」

何か感じるものがあるのか、ミランダはくすぐったそうに身をよじらせる。

(……職業を授かる瞬間って、体の中で何かわかるのもなのかな?)

やがて、ミランダを包んだ光が静かに消え……神官様が小さく目を見開く。

「……オクサルビ神はミランダに『上級魔法士』の職を授けてくださいました。今年は一人目から素晴らしい職業ですね……」

神官様が言った通り、高位の魔法が使えるようになる『上級魔法士』はかなり当たりと言っていいレア職業だ。

そんなレア職業が出る確率は、確か1%を優に切るものだったはず。

「……やったわっっ! ありがとうございますっ!」

ミランダもとても嬉しそうにしている。

それもそうだろう。

彼女はこれで『職業訓練学校』に入れるし、そしたら一攫千金の冒険者を目指すもよし、王族付きの魔法使いになって玉の輿を目指すなんてのもありだ。

「ミランダ、いいなあ……」

「そうだね。でも、メグもきっといい職業がもらえるはずだよ……」

「うん、早く私の順番こないかなっ……あぁっ、ドキドキするっっ」

僕たちが見守る前で、神官様は次々とこの日12歳になった子供達に職業を与えていった。

 

 

「……それでは、メグ、こちらへ」

とうとうメグの名前が呼ばれる。

やっぱりそう簡単に良い職業が出るものじゃなくて、今のところレア職業をもらうことができたのは一番最初のミランダだけだった。

どことなく不安そうな顔をしているメグに声をかける。

「メグ……絶対いい職業をもらえるよっ、君はいっぱい努力してきたじゃないか」

「リート……うんっっ!」

メグは気を入れ直したように立ち上がり、一歩一歩神官様の元へ向けて歩いていく。

神官様は他の子達の時と同じ手続きを繰り返し、メグの頭に両手を乗せる。

「オクサルビ神の祝福を……」

ーーその言葉と同時に、これまでで一番強い黄金色の光が教会の中を照らす。

「ぅぁあっっ……」

黄金色に輝いているメグがうめき声を漏らす。

「……こっ、これはっっっ!!!」

それを見た神官様が顔色を変える。

「メグが授かったのは……『賢者』の職業ですっっ! 今代の『賢者』がとうとう現れましたかっ……あぁっ! オクサルビ神よ、主の祝福、感謝いたしますっ!」

興奮した様子の神官様が神へと祈りを捧げ始める。

教会の中はざわざわと騒がしい。

「メグが……『賢者』になれるなんて……すごいやっっ」

スーパーレアの最上位職の一つで、当代に一人しか授かることができない『賢者』の職業。

つまり、彼女が選ばれた今、少なくとも今後数十年はメグだけが『賢者』の職を務めることになるのだ。

彼女が『職業訓練学校』に入れるのはもちろん、学校での待遇は王族並みの扱いになると言われている。メグの将来は約束されたようなものだ。

正直に言ってしまえば、かなり羨ましい。

僕も……『勇者』とまではいかなくても、上位の戦闘職で続きたいところだけど……

「……お待たせしました、それでは、次はリート、こちらへどうぞ」

祈りを終えた神官様が僕の名前を呼ぶ。

神官様の元に向かう間、嬉しそうなメグとすれ違う。

「メグ、おめでとう……」

「うん、ありがとう、リート……リートもきっといい職業がもらえるよっ」

「うん……」

ドキドキしながら神官様の元まで歩く。

聖水に濡れた手が頭に乗せられ……

「オクサルビ神の祝福を……」

体の中に熱い何かが流れ込んでくる。

体の中が作りかえられていくような不思議な感覚だ。

『職業』を得るってのは、こういうことなのか。

「……これはっっ?」

そんな神官様の声が聞こえる。

メグのときほどではないけど、神官様の声は驚きに満ちている。

 

これは、期待しても……いいのだろうか……?

 

「…………ユニーク職業……ですね? オクサルビ神はリートに『スライム繁殖師』という職業を授けてくださいました」

「……ユニーク、職業? スライム……繁殖、師、ですか?」

ユニーク職業、っていうのは割と良さげに聞こえる響きなんだけど……『スライム繁殖師』ってのは何ができるのかはっきりわからない職業名だ。

見上げた神官様もまた、表情を困惑色に染めている。

「ええ……我々の管理している職業リストにはこの名前はなかったはずです。そういった職業を我々はユニーク職業と呼んでいます。『繁殖師』なので『召喚士』や『調教士』に近い職業なのかもしれませんが、生産系の職の可能性もありますね……」

母さんのような『召喚士』に近いならば、使い魔を召喚して戦うことができるわけだけど、繁殖師ってのはちょっと違うもののように聞こえる。

「あのっ、神官様。僕は……『職業訓練学校』には、いけるのでしょうか?」

「そうですね……ユニーク職業はケースバイケースなのですが、繁殖師というのは戦闘系の職業には思えませんし、『スライム』というところもネックになってしまうかもしれません……」

確かにスライムは何の戦闘力も持たない大人しい魔物だ。害にはならないけれど力になってくれるとも思えない。

「………………そう、ですか」

「私の方で王都の大教会本部に問い合わせてはみますが、期待はしないほうが良いでしょう。直接の戦闘職以外の職業が、『職業訓練学校』の入学要件を満たすことはとても珍しいことですので……」

「そう、ですか……わかり、ました」

ガクッと肩を落とした僕は、とぼとぼと自分の座っていた場所へと戻ったのだった。

 

 

 

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ーー No. PD

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