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外れ職業『スライム繁殖師』になっちゃったけど恩寵スキル『状態変換』で一発逆転
「ぐすっ……ひっく……」
俯き加減でも類稀な美貌をもつことを隠しきれていない少女が僕の目の前でむせび泣いている。
「……ぐすっ……リート……本当に、これでお別れ……なの? 今からでも……一緒に、いかない……?」
涙に頬を濡らして、僕をまっすぐに見つめてくる彼女の顔を見ると、どうしようもなく切ない気持ちがこみ上げてくる。
だけど……僕が彼女にしてあげられることは何もない。
「メグ……残念だけど、僕はメグと一緒には行けないよ……」
僕が彼女に返せる答えは、この真実だけ……
「でもっっ、一緒に世界を旅して、冒険してっ、有名になるってずっと二人で話してたじゃない……」
「そうだね……僕も、そうしたかったよ。だけどねっ、『賢者』になった君と僕とじゃ……生きる世界は違うんだっ。たとえ王都に一緒に行ったって、僕はメグと同じ学校には入れないし、一緒に仕事だってできないんだから……」
差別のひどい世界ってわけじゃないけれど、優秀な職業の人とそうじゃない人で明確に区別はされている。
この世界で”学校”に入れるのは、優秀な職業を得ることができた彼女、幼馴染のメグのような人たちだけ。
特殊な才能を得ることのできた彼女たちのようなエリートをさらに育てるため、王国は『職業訓練学校』というサポート体制を整えているんだから。
残念だけど、僕があの日に得た職業は、そんなエリート職業には該当していなかった。
幼い頃から一緒に暮らし、双子の兄妹みたいに仲の良かった僕と幼馴染のメグ。
明るい茶髪、白く滑らかな肌に乗った大きな瞳、形良く伸びる鼻筋、そして桃色の唇。
彼女の可愛らしさは幼い頃から全く変わってはいない……いや、磨きがかかっている。
そんな彼女と……ずっと一緒に二人で冒険しようって、有名になってお金持ちになって一緒に幸せになろうって、そんな将来の約束をしたことだってあった。
だけど……
僕たち二人が職業を得たあの日……
僕とメグの道は完全に別れてしまったのだ……
「うぅっ、リートぉ、さみしいよっ…………わかった、私、いくよっ。でも、また……会えるよね……ひっく……」
「うん……僕はこの街にいるから……メグがこの街に戻ってきた時には、いつでも会えるからさ……」
「うん……リートぉ……」
一歩近付いたメグが、僕の背中に両手を回す。
僕もまた彼女の背へと手を送る。
ふんわりと甘いいい匂い。
そしていつのまに育っていたのか、柔らかな彼女の体。
彼女の女の子の魅力をこれでもかと感じさせてくれる。
彼女がこのまま僕の腕の中にいることを選んでくれるなら、それに勝る喜びはないだろう。
でも……
僕には彼女の世界を旅する冒険者になりたいって夢を止めることができない。
それはかつて僕も見た夢であり、僕がもはや叶えることができない夢でもあるんだから。
彼女がその夢を達成するには、王都の職業訓練学校でしっかり学ぶのが一番の近道。
そして……
メグと同じく才能と自信にあふれる優秀な職業を得た若者たちが集まる王都の学校。
そんな学校で5年を過ごすメグは、いつまで幼馴染の僕のことを覚えていてくれるのだろうか?
そんなネガティブな感情が脳裏に浮かぶ中……
「メグ……それじゃいくよ。リートくん、私は10日ほどで戻るから、その間マーシャのことを頼んだよ」
「はい、わかりました。しっかりおばさんの手伝いをしておきます。おじさんも気をつけてください」
メグの父親のマッツさんに促され、メグは幌付きの馬車に乗り込む。
「メグ、それじゃ、元気でね……」
「うんっ、リートもっっ……絶対、絶対、また戻ってくるからねっっっ!!!」
「うんっ、楽しみにしてるよっ!」
幌馬車から顔を覗かせるメグに手を振る。
街の外壁の門をくぐり、馬車は少しずつ小さくなっていく。
僕は彼女の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
ーー No. PD
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